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Plant of Xi’an イソマツ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an イソマツ属

2020/02/10

華清宮の裏山である驪山(りざん)に登ると秦の始皇帝陵Shǐhuángdì língが望めます。始皇帝は、黄河流域に生まれた都市国家を初めて統一し、秦王朝(紀元前221~紀元前206年)を建国しました。彼は王の上に君臨する皇帝を初めて名乗り、自らを頂点とする強権中央集権官僚制国家をつくり、その後の王朝の規範を作ったのでした。

権勢を誇った始皇帝が恐れたのは死でした。彼が求めた不老不死の妙薬は命を縮めるものばかり、49歳の若さで命を失い驪山の北側に埋葬されました。彼の埋葬品は驚くものでした。それは陵に程近く兵馬俑として残されています。始皇帝の苛烈な支配は長くは続きませんでした。王朝は、再び分裂し戦乱の世が訪れ、漢、隋、唐の時代へと続いていきます。

華清宮には唐の時代に造られた城壁の遺跡があります。高さ3m、幅4mほどの遺構です。それは、焼いた土を積み上げたように見えます。

そこには、まず日本では見ることのない、面白い植物が生えていることに気が付きました。それは、園芸植物として切り花やドライフラワーにもされるものです。

リモニウム シネンセLimonium sinenseイソマツ科イソマツ属。種形容語のsinenseとは中国という意味です。根が赤く、少数の根出葉からたくさんの花茎を立ち上げ、高さ30cmぐらいの草丈。がくが白く、5裂した黄色い花冠を付けます。分布は、中国の海に面する各省、台湾など、海に近い場所に生える植物です。リモニウム シネンセのことを中国では补血草(bu xue cao)といいます。血を補う草と訳されるので中医薬にちなむのだと思います。

イソマツ属は、世界に広く分布しています。しかしながら、生息環境が特殊で種の生息域が狭いのが特徴です。多くは、海岸の砂地や岩など塩分濃度の高い場所、塩性土壌に生えます。

例えば、このような写真の場所です。高潮や台風時には波につかるような場所にイソマツ属イソマツは生えています。この写真の中にイソマツの姿が見えますが、分かりますか?

イソマツLimonium wrightii(リモニウム ライティ)イソマツ科イソマツ属。種形容語のwrightiiは、イギリスの植物学者Charles Henry Wright(チャールズ・ヘンリー・ライト)にちなみます。葉は小さく硬い構造で岩にへばり付くように生えていました。この植物は、伊豆諸島、小笠原諸島、もしくは南西諸島と台湾に分布し、塩分濃度が高い岩場に生息します。

塩性土壌は、海岸だけとは限りません。大昔に海があった内陸にも分布します。時としてイソマツ属は内陸の乾燥地にある、そんな場所にも生息しています。写真は、内蒙古 陰山山脈に生えるLimonium bicolor(リモニウム バイカラー)イソマツ科イソマツ属です。唐の時代の土塀をなめてくればよかったと反省。たぶんしょっぱい味だったに違いありません。リモニウム シネンセが西安の遺跡に生えていた理由が分かったかもしれません。

次週からPlant of Xi’anは、いよいよ秦嶺山脈の片隅に入ります。秦嶺山脈(Qínlǐng Shānmài)チンリンシャンマイは、中国文化を2つに分ける山脈です。そして中国の肺と表現され、緑少ない山が多い黄河流域と違い植物たちの息遣いがあふれる山々です。

秦帝国の山々、チンリンシャンマイQínlǐng Shānmàiは、どのような山で、どのような植物が生えているのか楽しみにしてください。

次回は「Plant of Xi’an 秦嶺終南山[前編]」です。お楽しみに。

JADMA

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