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Plant of Xi’an 秦嶺終南山[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an 秦嶺終南山[後編]

2020/02/25

終南山(しゅうなんざん zhongnanshan)とは、一つの山の名前ではなく西安から程近く、秦嶺山脈中央付近にある山々のことをいいます。この山脈には、森林形成が容易な降水量があります。そして北方と南方の植物境界線であり両方の植物が同居し、日本に生える植物との共通点も高いと感じました。

終南山の日当たりのよい林道脇には、マメ科の植物がちょうど花盛りでした。

ハナハギCampylotropis macrocarpa(カンピロトロピス マクロカルパ)マメ科ハナハギ属。種形容語のmacrocarpaは大きな果実を表します。

ハナハギ属は、ハギ属に近縁であり東アジアの大陸部分に固有の落葉低木です。ハナハギは、ハギ属に比べ花は大きく1.5cm程度。豆花の竜骨弁といわれる花弁が90度近く大きく湾曲しています。そして先端がくちばし状に尖るのが特徴です。「東アジア植物記」では別種であるウンナンハギCampylotropis polyanthaをすでに紹介しました。

ハナハギは東アジアの植物ですが、日本には生えていませんでした。最近は造園用の種子に混入していたらしく、帰化植物として日本でも見つかることがあります。花弁の基部が白く先端が薄い紫やピンクで、結構きれいな植物だと思います。コンパクトに育つので庭に植えてもよいものです。

ハナハギは半日陰に生え、日当たりのよい道端には、トウコマツナギ(唐駒つなぎ)がたくさん生えていました。この植物に馬をつないでおけるほど丈夫だという説、馬の好物がこの植物だったという説がコマツナギの語源とされます。互生する奇数羽状複葉を付けるコマツナギ属は仲間が多く、世界中に700を超える種があります。この属はマメ科独特の環境適応性を発揮してさまざまな環境に分化していったということです。

トウコマツナギIndigofera bungeana(インディゴフェラ ブンゲアナ)マメ科コマツナギ属。属名のIndigoferaは、 藍色の染料インディゴのことです。種形容語のbungeanaは、ドイツ系ロシア人植物学者のAlexander Georg von Bunge(アレクサンダー・ゲオルク・ブンゲ)に献名されています。中国北部に原生する植物には、彼の名前を冠する植物種が多くあります。

これは、インディゴの原料になったナンバンコマツナギIndigofera suffruticosa(インディゴフェラ サフティコーサ)です。種形容語のsuffruticosaは、低木状のという意味です。キアイ(木藍)ともいわれます、ナンバンコマツナギは、北アメリカ大陸南部に分布するコマツナギです。この植物から採れる染料でジーパンを青く染めたのです。

トウコマツナギは日本のコマツナギ Indigofera pseudotinctoria(インディゴフェラ プセドティンクトリア)によく似ていますが、バイオマスが大きく、草本状のコマツナギに対しトウコマツナギは木本状でキダチコマツナギという別名もあります。

林道には、ニワフジIndigofera decora(インディゴフェラ デコラータ)マメ科コマツナギ属もありました。この植物もコマツナギ属です。種形容語のdecoraは、decoration(装飾)のことです。花が大きく、見栄えのよいコマツナギです。

ニワフジ(庭藤)は、英語でbush wisteriaともいいます。それは低木状のフジという意味です。ニワフジはフジのように長大に大きくなりません。ニワフジは中国など東アジアに広く原生する植物で、日本でも中部以西に分布します。背丈が50cm~1mの大きさに収まりますので、小さな庭でも楽しむことができるでしょう。

視線を上にするとシナウリノキが花を咲かせていました。

シナウリノキAlangium chinense(アランギウム シネンセ)ミズキ科ウリノキ属。日本に生えるウリノキ(Alangium platanifolium)に近縁であり、中国中南部からヒマラヤ地域など広範囲に分布します。低木の日本のウリノキに対し、シナウリノキは高木になります。

谷あいの湿った茂みには、ヤマブキが咲いていました。特徴的な黄色い花は、ヤマブキに違いありません。終南山では個体数は少なく、ひっそりと隠者のように生えていました。ヤマブキは、東アジアでも日本と中国中南部山地の茂みに分布します。日本では全土に生え、古くから知られた植物です。日本では生息量も多く目立つ植物なので日本の固有植物だと思っていましたが、大陸起源の植物だったのでした。

ヤマブキKerria japonica(カルリア ジャポニカ)バラ科ヤマブキ属。中国名は棣棠Dì tángです。隶は、動物の尻尾に由来する漢字。棠は、海棠などバラ科の植物によく使われる文字です。ヤマブキの樹姿を見ると、動物の尻尾ということが雰囲気で分かります。学名のKerriaはスコットランドの植物学者William Kerr(ウィリアム・カー)に献名されています。

どことなく日本の低山の雰囲気を持つ終南山の小高い山頂に立つと、やりの穂先のような秦嶺太平山が見えました。次回から太平山周辺の沢沿いを攻めてみます。沢沿いは、日本でも固有種が多く見られる場所です。ご期待ください。

次回は「Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その1]」です。お楽しみに。

JADMA

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