タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

延胡索[中編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

延胡索[中編]

2020/03/24

キケマン属の学名はCorydalis(コリダリス)です。それは、雲雀(ヒバリ)の長い蹴爪(けづめ)が語源とされています。和名のキケマンとは漢字で黄華鬘と書きます。それは、仏堂の飾りである華鬘(けまん)のこと。キケマン属の種(タネ)を付けたさやが垂れ下がる様子から付いた名ではないかと想像します。

早春の落葉広葉樹の下に群れて咲く春の妖精たち、カタクリはその女王の名にふさわしいものです。それを引き立てるように咲くエンゴサクの仲間は見事な脇役ですが、その美しさではカタクリに負けていません。

オトメエンゴサクCorydalis fukuharae(コリダリス フクハラエ)ケシ科キケマン属。種形容語のfukuharaeは研究者の名前です。青い色が特徴的なエンゴサクですが、今まではエゾエンゴサクとされてきました。研究の結果、北海道に生息するものはエゾエンゴサク、本州に生息するものはオトメエンゴサクとなりました。

オトメエンゴサクはヤマエンゴサクに似ています。どこを同定の目安にするのかというと苞葉(ほうよう)の形状です。ヤマエンゴサクは苞葉に切れ込みがあり、オトメエンゴサクの苞葉には切れ込みがないのが特徴の一つになっています。

オトメエンゴサクは、本州中部から北の地域、主に雪深い地域に多く見られるエンゴサクです。印象的な青い花を咲かせるオトメエンゴサクですが、青い色素をつくることのできない株や距の先端が丸くなる株、棒状になる株、葉が3出の複葉であったり2回3出の複葉であったりと多様性があります。

オトメエンゴサクのそばには、よくいうと繊細な、悪くいうと貧弱なエンゴサクが咲いていました。葉が細く全体としてオトメエンゴサクの半分程度のボリュームです。

ミチノクエンゴサクCorydalis capillipes(コリダリス カピリペス)ケシ科キケマン属。種形容語のcapillipesは「毛のよう、細い」を意味し、この植物の葉の形状を表します。

ミチノクエンゴサクは、本州中部から北の日本海側に原生するとの記載が見られますが、太平洋側の三陸沿岸でも見かけましたので、多分、雪の多い地域に見られるエンゴサクです。前述のオトメエンゴサクとともに日本に固有のエンゴサクです。

日本を離れ、中国山東省の泰山の乾燥した崖面で見かけたエンゴサクです。葉の形状が今まで見たことのないものでした。よく分からないのでコリダスの一種であることを表す、Corydalis spp.とします。

こちらは、中国陝西(せんせい)省秦嶺(しんれい)山脈の沢筋で見かけたエンゴサクです。平さやで、種が赤いのに驚きました。調べる資料がなく、同定にさじを投げていますのでこちらもCorydalis spp.です。

陝西省の峡谷で見かけたエンゴサクの仲間です。下に川が流れる岩の上に生えていました。Corydalis spp. 。キケマン属の分布の中心といわれる中国にはさまざまなキケマン属が生えていて、もはやお手上げです。中国の専門家の先生に出会わないと種が判明しないような気がします。

このコリダリスは、中国黄河流域の乾燥した場所で普遍的に見られました。

コリダリス ブンゲアナCorydalis bungeanaケシ科キケマン属種形容語のbungeanaはドイツ系ロシア人の植物学者Alexander Georg von Bunge(アレクサンダー・ゲオルク・ブンゲ)によって命名されたことによります。

この植物の中国名は、地丁草(di ding cao)といいます。分布は東アジア北部です。シベリアから中国東北部、中西部の山地から人里近くまで広範囲に生息していました。

コリダリス ブンゲアナは、距が短くずんぐりむっくりしていて、多くの株は花弁がよじれていて、いじけて咲いている感じです。私がこの種をエンゴサクと呼ばないのは、塊茎を作らない種であることを確認したからです。

次回、後編では一年草タイプのキケマン属を紹介します。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.