小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
からかさお化け ヤブレガサ
2020/04/21
一つ目一本足でぴょこぴょこと跳ねる、からかさ小僧。使い古され捨てられた道具などが、その恨みから付喪神(つくもがみ)としてよみがえる、恐ろしくも悲しいその啓示は今の世にも通じるものがあります。
春の野山には日本が分布の中心になる、このお化けの元と想像できる植物が生えています。自然が作り出すデザインは、人知を超えたものであり、私たちにさまざまなイマジネーションを与えてくれます。
春の里山や低山の林床では、春の妖精たちが咲き終わり身支度を調えるころ、朝寝坊のからかさ小僧たちが目を覚まします。
カタクリが実を付け葉を枯らすころ、地下からからかさ小僧たちが起きだしました。まだ葉緑素をつくる暇もないのでしょう。アントシアンの地肌をさらしてすっぴん姿で登場です。
その姿は、漫画や妖怪大事典に出てくる「からかさ小僧」そのものの風貌ではありませんか? これだから、外遊びはたまりません。こんな姿を見るには何よりタイミングが重要です。その期間は1週間ぐらいでしょう。
からかさ小僧の正体は、ヤブレガサSyneilesis palmata(シネイレシス パルマタ)キク科ヤブレガサ属。種形容語のpalmataは「手のひら」を表します。Syneilesis属は、東アジアの温帯林に固有の植物で、特に温暖で降水量の多い日本が分布の中心になっています。
ヤブレガサは、地下茎を伸ばし群生する宿根草です。この種は日本の本州から九州の主に落葉広葉樹の林下に生息しているのですが、ちょっと変わった場所で見かけたことがあります。
ここは日本三大カルストの一つ、北九州の平尾台です。それは、石灰岩の露出した岩柱の間でまさかの遭遇でした。ヤブレガサは林の中ばかりでなく、このように明るい乾燥した環境にも適応する環境順応性を持っているのです。この場所は、夏にはススキが生い茂り、冬には野焼きが行われます。丈夫な地下茎を作るこの植物にとって意外と居心地がよいのかもしれません。
ヤブレガサは面倒なのか、地下からたった1枚の葉しか出しません。傘をすぼめたように芽を出し、傘を広げるように葉を展開していきます。葉は不規則に多裂し、これまた不規則な鋸歯があります。誰が名付けたかヤブレガサ。反論の余地のないそれは絶妙なネーミングです。
夏になるとヤブレガサは草丈50cm、葉の大きさ50cmぐらいに成長します。そして成熟した株だけが花茎を1m程度伸ばして、円錐(えんすい)状の花穗を伸ばします。
ヤブレガサはキク科です。この科の花は頭花といい、いくつかの花の集合花になっています。ヤブレガサの頭花は10個ぐらいの管状花が集まり、その大きさは1cm程度。総苞(ほう)は5枚、花色は薄い薄いピンク色です。
ヤブレガサ からかさお化け。まったくおかしな生き物が日本の野山にはすみついているものです。
次回は「モミジガサの周辺」です。お楽しみに。