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連載

どんぐり ころころ[その1] ガイダンス編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その1] ガイダンス編

2020/10/06

秋雨が降り、過ごしやすい季節になりました。さあ、食欲の秋、スポーツの秋、園芸の秋の始まりです。秋は園芸を楽しむのに絶好の季節です。夏に疲れた体をいたわりながら、庭やベランダの植物たちのお手入れ、野菜や草花の栽培が楽しい時期です。
一方で野山を歩くのも楽になりました、林や森では、そちこちの木々たちが落としたどんぐりが転がり、あるいはパラパラと音を出して降ってきます。そんなどんぐりを見ると、思わず手に取りポケットに入れてしまうのはなぜなのでしょう? 子どものころ、誰だってどんぐりと遊んだことでしょう。大人になっても、どんぐりを拾うことがなぜか楽しいのです。それは遠いご先祖様からの記憶、DNAに刻まれた本能なのかもしれません。

日本に原生する樹木でどんぐりを付けるものは22種類、日本に植えられている外国種で、どんぐりを付ける木々たちも数種類はあります。日本以外の東アジアなどに生えるどんぐりも視野に入れて、この際、皆まとめて覚えてしまいましょう。こんなどんぐり、あんなどんぐりが、そんな木々になるのです。

どんぐりとは、人間が勝手に名付けた樹木の実に対する呼称です。それは、ブナ科植物には、果実に殻斗(かくと)といわれる総苞があり、果実の皮が厚い堅果(けんか)がなります。それを、どんぐりと呼ぶのです。分かりやすくいうと、ブナ科植物の殻斗を持つ堅果がどんぐりです。

どんぐり用語での殻斗とは、植物学的には雌花を保護する役割を持つ総苞のことです。殻斗は、初め堅果全体を覆います。やがて果実が成長すると殻斗から果実が顔を出して成長します。殻斗をどんぐりの帽子というと分かりやすいでしょう。殻斗がないと、どんぐり間の区別は難しく、それが何か分からないかもしれません。どんぐりは、殻斗の形状の違いによって特徴づけられます。どんぐり全体を覆う殻斗、しま模様の殻斗、うろこ状の殻斗、ビロード状の毛が生えた殻斗、柄(え)と一体となった殻斗など。殻斗は、そのどんぐりによって特異的な形状を持つのです。

堅果とは、植物学の果実における分類用語です。それは、堅い殻に包まれた果実のことをいいます。一見して種子に見えるかもしれません。どんぐりの果実は、木質の硬い皮のような質感で果肉は発達しません。果実の中には、薄い種皮に包まれた大きな種子があります。左の写真のどんぐりの先端は雌花の柱頭跡です。右の写真のアカガシの雌花を参考にしてください。写真を見比べるとそれは理解できます。

日本の森を大きく分ければ、針葉樹林を除き、落葉広葉樹林か照葉樹林です。照葉樹林は常緑広葉樹林ともいいます。北東日本から北方に広がる落葉広葉樹林には、ブナやナラ類が多く生えます。一方、西日本からヒマラヤに及ぶ照葉樹林帯にはシイやカシ類が目立ちます。それぞれの樹林帯の主役たちは皆どんぐりを付ける木々です。どんぐりを知ることは、森の主な木々たちを覚えることにつながります。森を知れば森と友達になることができるかもしれません。

どんぐりは、9月の下旬にもなると、森では雨のように空から降ってきます。成熟したどんぐりの木の下には数え切れないほどのどんぐりが落ちます。この膨大な炭水化物のバイオマスは森の動物を養います。どんぐりは森の恵みです。人間が森の動物だったころ、これが主要な食糧だったことが研究から分かっています。狩猟や植物採取に糧を求める時代にどんぐりが貴重なエネルギー源であったことは想像に難くありません。

どんぐりには、タンニンなどのあくがあり、そのままでは渋くて食べることが難しい種もあります。そのため、あく抜きをして食されていました。しかし、クリにあくが少ないように、そのまま食用にできるどんぐりもあります。自宅周辺で拾い集めたどんぐりをいって、お酒のつまみにしました。どんぐりは、十分な栄養価もあり乙な味です。縄文の末裔(まつえい)として、その味を確かめてみるのも秋の夜長の楽しみです。

クリが好きな方は、たくさんいらっしゃることでしょう。私も大好きです。クリの渋皮煮を作ってみました。この渋皮こそ、タネの種皮に当たる部分なのです。クリだってブナ科の植物です。イガ(殻斗)を持った堅果を付けるのでどんぐりの一種です。世界で一番大きなどんぐりは恐らく、クリでしょう。どんぐりという呼称の語源は、1,たくさん付くクリだから、団体栗(ダングリ)説。2,クリほどおいしくない鈍なクリ(ドンナクリ)説。3,団子にして食用にした団子栗(ダンゴグリ)説などがあり、どれも説得力があり定かではありません。

次回は「どんぐり ころころ」の各論について話を進めます。お楽しみに。

JADMA

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