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どんぐり ころころ[その3] 里山のどんぐり2

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その3] 里山のどんぐり2

2020/10/20

関東ではクヌギが雑木林の主役を演じますが、中部以西の雑木林では近縁種のアベマキが多く生えています。東日本のクヌギ、西日本のアベマキといったところです。アベ、マキと句読点を付けると、何やら人の名前みたいに聞こえますが違います。アベとは、あばたのこと。マキとは、薪(まき)のことを指し、あばた状の樹皮を持つ薪炭(しんたん)樹という意味とされます。里山のどんぐり続編は、このアベマキとコナラです。

アベマキQuercus variabilis(クエルクス バリアビリス)ブナ科コナラ属。種形容語のvariabilisは、変化に富む、変化が多いを表します。この樹種は、クヌギと近縁の落葉高木であり、日本の中部地方以西に生息し、東アジアに広く原生します。

アベマキとクヌギは、区別が難しいほどよく似ています。違いを説明しながらアベマキの概要をお話しします。

まず、樹皮の違いについてです。アベマキやクヌギの樹皮は、縦に筋が入り内側から、外側へ成長していきます。アベマキは、その成長が早くコルク質となって厚く肥大するのです。それは、コルクの代用にできるほどです。

次に葉の違いです。両種とも長楕円(だえん)形で鋭い鋸歯がありますが、アベマキは、クヌギに比べ幅が広く短いのです。アベマキの葉裏を見てください。細かい毛(繊毛)が密生していて乾燥に耐える構造をしています。その点においてもクヌギの葉裏には目立つ毛は見当たりません。

それは、落ち葉を見ても同様です。落ちているどんぐりの周りには枯れ葉があります。アベマキとクヌギの落ち葉を見比べると葉裏の白いアベマキは、ひと目でクヌギとの区別が付きますので覚えておくとよいでしょう。

10月になると、アベマキのどんぐりを拾うことができます。クヌギの真ん丸どんぐりと比べるとやや細長い形状です。それと特筆すべきは、殻斗(総苞)における総苞片の発達度合いのよいことで、鱗片(りんぺん)の一つ一つが堅牢な作りになっています。

サイドバイサイドでの比較です。アベマキの殻斗は、どんぐりを深く包み込みます。総苞片の質感が木質で壊れにくいのです。クヌギの殻斗は、直径が広く浅く、果実を多く露出します。総苞片の質感はもろくボロボロと崩れてくるほど脆弱(ぜいじゃく)になっています。樹皮コルク質の発達の仕方、葉裏の白い繊毛の有無、果実の形状、殻斗の質感を理解すれば、アベマキとクヌギの区別は難しくありません。

ブナ科の落葉樹で、ナラ(楢)と呼ばれる樹木の登場です。

コナラQuercus serrata(クエルクス セルラータ)ブナ科コナラ属。東アジアに広域分布する樹種であり、日本では北海道から九州に原生します。クヌギとともに里山を代表する樹木といってよく、私たちにとってなじみ深い樹木でもあります。

コナラ属の学名はQuercusです。それは、ケルトの言葉、quer(よい)+cuez(木材)の合成語です。ナラ材という木材の名前を耳にしますが、ナラという名前の樹種はありません。ナラとは、落葉性のコナラ(Quercus)属の総称です。英語ではoak(オーク)といいます。oak(オーク)とは、英語でナラと同じように、ブナ科コナラ属の、落葉性樹種を指します。オークランドという地名がありますが、ナラ類の林や森がある地域なのでしょう。

コナラは、小さな樹木ではありません。20mほどに育った、大きなコナラをよく見ます。その名前は、他のコナラ属に比較して葉が小さいという意味です。種形容語のserrataは、葉に鋸歯があるという意味なのですが、鋸歯が葉の先端方向に向く場合にserrataと表現することを覚えておきましょう。

春3月下旬~4月上旬。まだ寒さが残る中に、コナラの芽はほころび、雄花が尾状に咲きます。雌花は小さく目立たないのでよく分かりませんが、きちんと新枝の先に付いています。コナラもまた、同株雌雄異花なのです。

コナラは、受粉したその年にどんぐりができる1年成。10月にはたくさんのどんぐりを落とします。雑木林でなくても、そちこちの公園や緑地にも植栽されていますので、そのどんぐりは、最も目にすることが多いでしょう。

コナラのどんぐりは、殻斗(帽子というと分かりやすい)に特徴があって見分けるのは容易です。殻斗がうろこ状になっていますね。果実は細長、浅いうろこ状の帽子。それが、コナラのどんぐりです。

コナラは、萌芽力が強く、根元から切らなければ再生します。それは、薪炭材として優れた能力なのです。他にシイタケのほだ木にも利用されています。この樹木は、良質の木材になるというのはすでに書きました。その昔、その材を使い七つの海を支配したといわれる海洋国家がありました。それは、次週のお話です。

次回は「どんぐり ころころ[その4] Oak(オーク)1」です。お楽しみに。

JADMA

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