小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
どんぐり ころころ[その5] Oak(オーク)2
2020/11/04
世界のそれぞれに、さまざまなどんぐりがあります。どんぐり愛好家の私は、それが、どのようなものなのかを知りたいのです。しかし、世界中のどんぐりを見て回ることは難しい。でも、いくつかの樹種は日本に植栽されていて、季節になれば、その一端に触れることはできます。 イヤリングみたいなヨーロッパのどんぐり、北米産のピンオークは小さく扁平などんぐりでした。もう一つ北米に原生する、おかしなどんぐりをつける木が日本にも植えられています。
そのどんぐりはこんな感じです。長さは殻斗付きで4~4.5cm、重さは平均12gの立派な体躯をしています。お皿のような浅い帽子をちょこんとのせ、ベレー帽をかぶったようなお姿。果実を反対にのせるとそれは、カップアンドソーサーのようでもあります。普通、どんぐりは上からパラパラと音を立てて落ちます。しかしこのどんぐりは、バサッ、もしくはドン、とばかりに落ちてきてくるのでした。
このどんぐりが、おいしそうなので食べてみることにしました。「栗くり坊主」というクリの皮むきバサミを使うと、簡単に殻と渋皮がむけます。そして実に熱を加えてみました。一口、二口までは、カリカリの食感で、ほのかな甘みを感じていたのですが、後から猛烈な渋みが、口の中いっぱいに広がりました。これ、人が食べるものではないと思います。それでも、北米の鹿やリス、鳥たちにはごちそうだといいます。彼らはきっと、長い年月の中で渋味のもとであるタンニンに対する不感受形質を獲得したのでしょう。
レッドオーク(アカガシワ)Quercus rubra(クエルカス ルブラ)ブナ科コナラ属。カナダ南東部からアメリカ中東部にかけて原生します。樹高は30m、時には40mほどに育つ落葉性の高木です。持ち前の丈夫さから世界の温帯域に植栽されていて、日本でもその大きなどんぐりを目にすることができます。
種形容語のrubraは、赤い色を意味します。それは、この木の葉が赤く紅葉するからです。でも、そのような紅葉を見るには、関東では秋の冷え込みが足りないのでしょう。葉は長さ20cm程度ある大型で、深く切れ込み鋸歯の先端は鋭角に尖ります。
レッドオークの幹は直幹。灰茶色の樹皮を持ち、縦に裂け目が生じます。幹が太くなるこの木は、重要な木材の一つであり家具材、ベニア材として利用されます。
日本に比較的多く植栽されている北米産Oakは、この2種です。それぞれ、葉やどんぐりの形状はユニークですから、一度見たら忘れられない形です。両方とも2年かかって秋にどんぐりを落とします。
英語でDaimyo Oak(大名オーク)、または Japanese Emperor Oak(日本の皇帝オーク)と呼ばれるナラ類があります。それは カシワ(槲)です。カシワは世界のナラ類の中で、最も大きな葉を付ける雄大な樹種です。カシワを漢字で柏と書く場合がありますが、柏という漢字は本来、松柏というように針葉樹のヒノキ科の総称として使用する文字です。中国語では扁柏でヒノキ、側柏でコノテガシワです。
カシワという名前は、炊飯の炊(かしわ)ぐに由来するのです。樹種として、本来の漢字を当てるとすると槲という漢字になります。
カシワQuercus dentata(クエルクス デンタータ)ブナ科コナラ属。カシワは、大きなうちわ状の葉を持つ落葉の高木です。日本の他、東アジアの大陸部分にも広く原生します。関東では、見る機会は多くありませんが、日本海側の東北、北海道の海岸林ではよく目にします。材が堅牢なカシワは、寒冷な地域において海と大地の境に、その林が見られることがあります。
落葉性の広葉樹といってもカシワは、素直に葉が落ちません。葉は枯れてなお、樹上に残り、春の新芽が出るまで付いています。それを枯凋性(こちょうせい)といい、寒さや強い風から冬芽を守る形質なのです。大きな葉と枯れ葉は、冷害、塩害、強風から大地を守っています。
おなじみのカシワの葉です。柏餅で有名なので、ご存じでしょう。それは、世界一大きなナラ類の葉です。カシワの学名はQuercus dentataでした。その種形容語のdentataは、鋸歯が開出することに由来します。コナラの種形容語は、serrataでした。こちらも同じ鋸歯のことですが、先端が上を向いている形状を表します。学名を覚えると、そうした差異も理解できますね。
カシワは、5月に開花し、受精に成功した場合、10月にどんぐりを落とす1年成です。そのどんぐりの姿は、とてもユニークで一度見たら忘れられません。
カシワのどんぐりは、短い砲弾状で濃い茶色、先端部の柱頭跡は鋭く尖ります。面白いのはその殻斗です。羽毛状でフサフサとしているのです。日本のどんぐりでその状態なのは、カシワだけの特徴です。世界でも類がないかもしれません。
次回は「どんぐりころころ[その6] 美しく紅葉するミヤナラとミズナラ」です。お楽しみに。