小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
どんぐり ころころ[その7] ナラガシワとアオナラガシワ
2020/11/17
秋になれば、近くの公園や雑木林に行けば、幾つかのどんぐりに出合えます。とはいえ、どんぐりの木々たちは、それぞれに生息条件や分布範囲が違い、地域ごとに拾えるどんぐりは異なります。中には広域に分布していることが確認されているものの、個体数が少なく希少性の高いどんぐりもあります。その樹種は、本州北部~九州を経て、東アジア各地、ヒマラヤ山系にまで及ぶ生息域にかかわらず、関東では見るのは難しく希産であり、数えるほどしか生えていません。
ナラガシワQuercus aliena(クエルクス エィリエナもしくはアリエナ)ブナ科コナラ属は、カシワの葉をスマートにしたような、広い葉を持つ落葉の高木です。英語では Oriental White Oak(オリエンタル ホワイト オーク)といいます。この木は、東アジアの広い範囲に生息していますが、暖地が分布の中心です。
ナラガシワは、腐植の多い湿った土質が好きな樹種であり、山地の谷筋、丘陵地の水辺などを生息域にしています。
東京都八王子市と日野市を流れる、多摩川の支流の一つである北浅川です。台風のときに、氾濫したらしく護岸が崩れていました。水の流れが上流から土砂や栄養塩類を運び、川をよりどころに木々たちが育つ林を河畔林といいます。
過去に大雨が降れば氾濫していた場所(氾濫原)も、今では治水によって住宅地になっている場所もあります。北浅川の元氾濫原は、住宅に隣接する川沿いの公園となって保存されていました。そこには、関東では珍しいナラガシワの小さな林があります。
ナラガシワは、カシワと見間違えるような幹と大きな葉を付ける樹種です。しかし、果実や殻斗の形状は、カシワとはかなり異なります。
ナラガシワのどんぐりは、数あるどんぐりの中でも高級品です。殻斗はおわん型、鱗状で堅く、果実の殻も厚く丈夫にできていて、大きなものでは4cm程度にもなる大型です。
ナラガシワの種形容語のalienaは、縁故のない、変わった、類縁のないという意味ですが、納得ができない種名です。和名はナラガシワですから、この植物は、ナラにもカシワにも縁故がありそうですし、別名はカシワナラです。カシワの葉、ナラガシワの葉、コナラの葉をサイドバイサイドで比べてみました。ナラガシワの特徴の一つは、広い葉を持ち明確な葉柄を持つことです。葉の形状はカシワに似ていて、葉柄が長いのはコナラに似ています。
どんぐりの形状も比べてみましょう。カシワとコナラのドングリはすでに説明しました。ナラガシワの果実は、カシワに近い形状からコナラに近い形状までさまざまです。殻斗の深さは、カシワに似て、鱗状紋は、コナラに似ています。ナラガシワの種形容語のalienaは、縁故のない、類縁のないという意味なのですが、他のナラ類との類縁関係は明白だと思います。
ナラガシワの林では、アオナラガシワQuercus aliena var. pellucida(ペルシダ)という変種も生えていました。変種名のpellucidaとは、透明という意味です。
写真の左側がナラガシワの葉とどんぐりです。写真の右側がアオナラガシワです。ナラガシワの葉裏には細かい毛が密生して白く見えますが、アオナラガシワの葉裏は、白くないのです。このことがアオナラガシワの変種名であるpellucida(透明)の由来です。どんぐりの色も、異なるように見えます。
こちらは、関西で入手したナラガシワのどんぐりです。果実の肩にかけて、細かい毛が生えていておかしな風貌をしていて、関東のナラガシワとは個体群が違うと考えられます。どんぐりは、同じ種であってもその木ごとに形状が異なります。特にナラガシワという樹種は、多様性が大きいと感じています。
次回は「どんぐり ころころ[その8] ブナとイヌブナ」です。お楽しみに。