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どんぐり ころころ[その12] アカガシとアオガシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その12] アカガシとアオガシ

2020/12/22

自分の顔は見えません。あまりに近いとその存在や価値に、人は気が付かないものです。遠きのものに憧れ、近きを疎いものにするのは、人のさがでしょうか? アカガシを探し、あっちこっちに車で出掛け、写真を撮ったり、観察したりしていましたが、なんと自宅から210歩の距離にある緑地に、10本ほどの木が生えていました。

そこは、開発もままならない小さな河川に落ち込む崖線でした。キブシやアオキ、シロダモ、ムラサキシキブを観察してきた場所なのです。存在感のある大きな青い(緑)葉を、クスノキ科の植物だと思って見過ごしてきました。

下を向いて足早に歩いていると、コナラ、シラカシ、アラカシでもないどんぐりが落ちているではありませんか? あれほどあっちこっち探し回って手に入れたアカガシのどんぐりです。まさか自宅近くにあったとは。

アカガシQuercus acuta(クエルクス アクタ)ブナ科コナラ属。この樹種は、日本の東北南部を北限に東アジアの沿海地を南下して、中国南部までを生息地域にしている常緑の高木です。成熟すると樹皮に鱗片(りんぺん)状に剥離が生じ地肌が褐色になります。故にアカガシと呼ばれます。

アカガシは、日本に原生するカシ類の中で最も大きな葉を付ける樹種です。種形容語のacutaは、 acutus(鋭く尖った)を意味します。それは、アカガシの葉の先端が細く尖ることによります。葉は革質で無毛、周りに鋸歯がなく全縁です。

葉のサイズ感は、株によって違います。小さな葉を付ける株は、葉身15cm、葉幅5.5cm、葉柄3cmほど。大きな葉は、葉身20cm、葉幅7cm、葉柄4cmほどでした。面白いことに枝の先端に付く葉が一番大きいのです。植物のつくった栄養分は優先して先端部分に配分されるのです。それを頂芽優勢の法則といいます。

コナラ属は、雌雄異花の風媒花です。アカガシは4~5月に花を咲かせます。下に垂れているのが雄花、新梢の先に立ち上がっているのが雌花です。虫を呼ぶ必要がないので目立った装飾は一切ありません。特に雌花は極端にコストを削減し、花柄に雌しべが飛び出るだけです。

アカガシは、受精した翌年にどんぐりが成熟する2年成です。そして、たくさんのどんぐりを降らせるシラカシなどとは違い、どんぐりを多産しません。

アカガシのどんぐりは、大きさ2cm程度、殻斗には10本ほどの輪があり、軟毛があってフサフサしています。実の半分を殻斗が覆うのも、アカガシらしい特徴ともいえるでしょう。

赤鬼には、心優しい青鬼の友達がいました。とばかりにアカガシに対しアオガシと呼ばれる常緑の高木があります。赤鬼の友達の青鬼が、自ら悪役になって身を退いたお話は泣かせますが、騙されてはいけません。アオガシは、アカガシに似ているだけで、仲間でもなくどんぐりを付ける木ではありません。幹も青くないのです。

アオガシMachilus japonica(マチルス ヤポニカ)クスノキ科タブノキ属。それは、タブノキの仲間です。ホソバタブともいわれ、日本の関東から朝鮮半島南部までの東アジア沿海部に原生します。植物の和名は、その名に意味を持たせようとする意図が強く表れ、しばしば植物学的認識と齟齬(そご)が起きることもあります。

アカガシのどんぐりは、柱頭や花被跡がはっきりしていて、新鮮な殻には軟毛が生えています。殻斗を触ると絹の感触があり、結構、私のお気に入り。この木は、どんぐりを少ししか付けないので、気が付かないかもしれません。でも、アカガシはきっと森や林の奥で大きな葉を付け、ひっそりと暮らしています。森の隠者か仙人のような風格を持つアカガシでした。

次回は、「どんぐり ころころ[その13] 特別編」です。お楽しみに。

JADMA

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