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どんぐりころころ[その16] 間種とイチイガシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐりころころ[その16] 間種とイチイガシ

2021/01/26

日本に生息するブナ科植物の員数に、その間種たちは含まれていません。どのくらい間種があるか分からないのかもしれませんが、立派なファミリーの一員であり、そのアイデンティティーを認めてあげてほしいと思います。中には、ユニークなどんぐりを付ける木があって、今回の子は、結構お気に入りです。

カシワQuercus dentata(クエルクス デンタータ)について調査をしているときでした。カシワらしき樹木の周りに、妙などんぐりがたくさん落ちていたのです。それは、どんぐり図鑑では見たことのないものだし、私の辞書にもありませんでした。

手に取って、シゲシゲと眺めても、恥ずかしがり屋らしく、殻斗からあまり顔を出そうとしません。奥ゆかしさと愛嬌(あいきょう)がたっぷりのどんぐりです。それは、明らかにカシワとは違うものです。

カシワのどんぐりです。カシワの果実は砲弾型で、花柱が長く伸びるのが特徴です。その殻斗は、レゲエ調というか、破れた麦わら帽子というか、総苞片が柔らかくフサフサしているのです。

前述のどんぐりの果実を殻斗から取り出してみるとかなり色黒ではありますが、カシワのそれです。いろいろ文献を調べていくとカシワは、他のナラ類と交雑しやすく、ミズナラQuercus crispula(クエルクス クリスプラ)との間で、カシワモドキという間種を作るということでした。

カシワモドキQuercus x anguste-lepidota(クエルクス アングステ レピドータ)ブナ科コナラ属。学名における間種名anguste-lepidotaとは、anguste狭いとlepidotaうろこ状の合成語です。それは、殻斗の形状から命名されたようです。カシワモドキの幹は、カシワ風ですが、葉はミズナラのような鋸歯があり、少し尖っていました。

カシワモドキは、カシワとミズナラの間種でした。どちらが母親か父親なのか、定かではありませんが、通常子どもの形質は、母方に遺伝情報が多くあるので、子には母系が色濃く出るのです。私は、何の根拠もありませんが母親がカシワで父親がミズナラだろうと思っています。落葉性のナラ類であるカシワ、ナラガシワ、ミズナラ、コナラは、それぞれに親和性が高く、相互に種間雑種を作ることがあります。

常緑のカシ類に話は戻ります。
日本の関東南部を北限に台湾、中国の暖地に分布する常緑高木に、イチイガシというカシがあります。それは、30mに達する大きな木です。俗に一番大きくなるカシとか、木材が一番堅く、一番よいカシだから一位樫といわれますが、イチイが何を指すのか諸説ありふに落ちません。

イチイガシQuercus gilva(クエルクス ギルバ)ブナ科コナラ属は、暖地の太平洋側平地に生えます。関東では植栽以外で見ることは難しいのですが、四国や九州など、西南の暖地に個体群が多いカシです。イチイガシの樹形は直立し、よく分枝します。遠目では葉色や葉柄の色の影響で、木全体がやや茶色に見えます。樹皮は灰褐色をして荒く剥がれます。

イチイガシの種形容語のgilva gilvu赤みのさした黄色、黄褐色のという意味があり、葉裏の密生する毛の色を表現しています。写真を見れば分かりますが、イチイガシの葉は硬く特徴的で、葉身の先半分に鋭い鋸歯を持った広披針形です。

イチイガシの花期は5月中旬、秋11月になると成熟して落下する1年成のどんぐりです。渋みの成分であるタンニンが少ないということですが、食べられるほど、どんぐりを集めていないので、まだ味見はしていません。

イチイガシのどんぐりは、とてもしゃれています。丸みのある楕円(だえん)形をしていて、グラマラスな胴回り、そしてややくぼんだ頂部、少し短い毛も生えています。花柱が妙に図太いのは、他のどんぐりで見たことがありません。何より茶色と黄色のしま模様の意匠がチャーミングじゃないですか? 殻斗には、7環程度の輪紋と繊毛があり、浅いおわんのような形状をしています。このイチイガシのどんぐり、一度見たら誰でも好きになるでしょう。

他のどんぐりにも、ストライプの模様は見られますが、イチイガシの模様は明瞭です。どうして縦じま模様になるのでしょうか? どんぐりのへそを見ると、道管、支管の跡が確認できます。原因は、維管束がどんぐりの中にまで、伸びているからだと思います。

次回は「どんぐりころころ[その17] ウバメガシとコルクガシ」です。お楽しみに。

JADMA

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