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どんぐりころころ[その18] あんなどんぐり、こんなどんぐり

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐりころころ[その18] あんなどんぐり、こんなどんぐり

2021/02/09

日本に原生するブナ科(どんぐりを付ける植物)には、5つの属があります。今まで、ブナ属、クリ属、コナラ属と3属の紹介をしてきましたが、「東アジア植物記」の記述にコナラ属Quercusが多いことにお気づきだと思います。コナラ属はどんぐりの世界の多数派であり、日本産どんぐりの73%、世界のどんぐりでも60%以上がコナラ属なのです。コナラ属は、落葉種も多く、いかにも、どんぐりらしいどんぐりを付けること。花粉の媒介を風に頼る風媒花であることなどが特徴です。本編において、日本産コナラ属を終了し、残り2属に入る前に、不思議な世界のどんぐりをちょっとだけのぞいてみましょう。

そのどんぐりは、日本に自生していません。しかし、日本の国でその実を拾うことができます。拾える場所は、黒潮の流れる南西諸島や九州、四国などの海岸です。写真は、どんぐりではありません。モモタマナTerminalia catappa シクンシ科モモタマナ属です。そのどんぐりは、日本において漂着物として確認されています。

それは、すべて木質化した殻斗に覆われる奇妙などんぐりです。色は灰褐色、表面は鱗片(りんぺん)状に浅く凸凹しています。長さ5cm 幅は3.5cm、柱頭付近と思われる頂上には直径1cm、深さ1cmほどのへこみがあります。重さは30gほどでした。

殻斗は、手の力では壊れそうもなく、剪定バサミで壊しました。その厚みは、へそ付近で5mm、薄い側面で2.5mmありました。中には、大きな種子があります。

オニガシLithocarpus lepidocarpus(リトカルプス レピドカルパス)ブナ科マテバシイ属。種形容語のlepidocarpusは、lepido~ 接頭語で鱗(うろこ)もしくは、鱗状(りんじょう)の、carpus~ 接尾語で果実のという合成語で、鱗状の果実という意味です。この果実は、オニガシという台湾に固有のカシ類が付けるどんぐりです。

台湾の山地に生息する常緑高木であるオニガシが、日本に漂着する条件は2つあります。1つ目は、フィリピン沖で発生する秋の台風によって実が落とされ、水流によって海にたどり着くこと。2つ目は、それが黒潮によって運ばれることです。写真はオニガシの種子。へこんでいるところに柱頭跡があります。それは頂部です。尖っている部分がヘソに当たる妙な種子です。

オニガシの殻斗は、種子全体を覆い尽くしていて中身が見えませんでした。このどんぐりの殻斗は、種子と一体になっていて外れそうもありません。

コウダイホガシLithocarpus corneus(リトカルプス コルネウス)ブナ科マテバシイ属。種形容語のcorneusは、角状のという意味があり、硬質の殻斗を角と見立てた故の命名です。

コウダイホガシの中国名は後大埔石櫟(Hòu dà bù shí lì)といいます。それは、台湾中部の地名である後大埔の石クヌギという意味です。この植物は、台湾、中国南部、タイ、ベトナムなどアジアの亜熱帯、熱帯の山地に生息する常緑のカシです。どんぐりの大きさは3.5cm幅で高さ2.5cm、重さ10gほどです。

リトカルプス パキレピスLithocarpus pachylepisブナ科マテバシイ属。日本に住んでいると、どんぐりは縦方向に長いものと思いがちです。ところが世界のどんぐりを見ていくと、そんな常識は非常識なのが分かります。マテバシイ属は、東アジアから東南アジアにかけて300種以上の種を分化させ奇妙などんぐりを付けます。リトカルプス パキレピスは、高さ2cmに対し幅は4cmあり、重さ14gほどの、背の低い円錐(すい)形、おまんじゅうのような形態をしているのです。pachylepisという種形容語は、厚い鱗片という意味です。

リトカルプス パキレピスは、20世紀初め、フランスの植物学者である Aimée Antoinette Camus(エイミー・アントワネット・カミュ)によって学名が付けられました。当時、ベトナムは、フランスによって植民地にされていました。そして、熱帯植物を資源とするために、大量の植物標本がフランスに渡ったのです。彼女は、この地域のブナ科植物を研究して、多くの植物に名を残しています。このどんぐりを付ける樹種は、ベトナム、中国雲南省など、南シナ海沿岸地域の常緑樹林内に生息しています。

クエルクス ヘルフェリアナQuercus helferianaブナ科コナラ属。それは、アジアの熱帯林に生息し樹高20mになる常緑高木です。この扁平な果実の大きさは、幅3cm、高さ3cmくらい。殻斗は堅く輪紋状で、6~8層の溝が明瞭に深く刻まれています。柱頭の跡は突起のようで、殻の表面に薄茶色の毛が密生しているので泥で汚れているように見える妙などんぐりです。

私がどんぐり好きだということで、ドイツから届いたどんぐりがこれ。誰の目にも、これがどんぐりに見えるのは仕方ありません。でも殻斗がないかな? セイヨウハシバミCorylus avellana(コリルス アベルラナ)カバノキ科ハシバミ属は、北ヨーロッパや南ヨーロッパに原生する植物、ヘーゼルナッツといえば分かりやすいと思います。タンニンのあくがなく、おいしいナッツでした。残念ながらどんぐりではないのです。似た風貌をしていても、ブナ科の堅果以外をどんぐりとは呼んでくれません。でも、せっかくの厚意には、感謝、感謝しかありません。ありがとう。 Danke schön.

今回、『世界どんぐり図鑑』という本を買ってしまいました。世界のどんぐりたちは、私の想像をはるかに超えていました。いつか自分の目で見てみて、手で触れてみたいものです。

次回は「東アジア植物記 どんぐりころころ[その19] マテバシイ属 前編」です。お楽しみに。

JADMA

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