小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
どんぐりころころ[その20] マテバシイ属 後編
2021/02/22
前回、シイタケの話までして、マテバシイの話が途中で終わってしまいました。前編の続きの後編は、マテバシイの残りとシリブカガシについてです。その2つは、あまたあるマテバシイ属の世界的北限分布種です。
マテバシイLithocarpus edulis(リトカルプス エデュリス)は、5月に花を咲かせます。虫媒花であることは前回述べた通りです。どんぐりは受粉の翌年に成熟する2年成。枝先には前年に受粉した幼いどんぐりの花序、その先に10cmほどの穂状花序があり、雄花が多数咲いています。さらにその先端、棒状に雌花の花序が突き出ます。
マテバシイの雌花は、目立たない3本程度の雄しべからなります。花被は虫を呼ぶ広告塔の役割も担うのですが、全く色気がありません。その代わり、妙な臭いを出し訪花昆虫を引き寄せます。
マテバシイのどんぐりは、秋9~10月に成熟する細長いどんぐり。図太いどんぐり。木によって付ける実の形に変異が多く、およそ、その長さは3cm程度の砲弾型。殻は厚く、石のように硬いどんぐりです。殻斗は、鱗片(りんぺん)状で長い花軸に付いて、それから離れることはありません。どんぐりが成熟すると花軸と枝との間に離層が生じ、花軸ごと落下してきます。
マテバシイのどんぐりは、豊産で木の下に行くと、たくさんのどんぐりに出合うことができます。たくさん拾えること、虫が付かないこと、大きいこと、どんぐり遊びに使うにはもってこいです。その他にマテバシイのどんぐりには大きな利点があります。
それは、食べてもおいしいことです。マテバシイの学名は、Lithocarpus edulisでした。意味は、「食べることができる石の果実」。だての名前ではありません。どんぐりに多いタンニン(渋み、えぐみ)が、ほとんど感じられないために、いってナッツにしても、炊いてご飯にしてもおいしいのです。果実も大きいし、マテバシイのどんぐりが降る森では、糧になってきたことでしょう。
たくさんのどんぐりが落ちても、原生地など以外では、その下で発芽しているマテバシイを見ることは、ほとんどありません。マテバシイ属は、亜熱帯、熱帯地域が故郷です。発芽しても、幼苗は寒さに弱く、暖地以外で成長していくことができないのだと思います。
マテバシイのマテバとは、何を意味するのでしょうか? 馬刀(マテ)、全手(マテ)、有明海に生息するアゲマキ貝(マテ)に由来する。否、待てば椎(マテバシイ)みたいにおいしくなるなど、その語源を推測する説は多いのですが、どれも説得力に欠けます。マテバシイの葉は厚い革質で照葉、長さ16cm内外の倒卵状楕円(だえん)形をしています。マテバは何を意味するのかよく分かりませんでした。