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どんぐりころころ[その22] シイ(椎)属 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐりころころ[その22] シイ(椎)属 後編

2021/03/09

ヒマラヤの麓からアジアモンスーンの下に広がる照葉樹林帯。そこが、マテバシイ属やシイ属の生息する場所です。赤道直下の暑いインド洋で蒸発した水蒸気は、ヒマラヤにぶつかり雲になります。雲は偏西風に流され、暖かいアジアの陸地沿いを東に流れていきます。アジアモンスーンの終着地点と照葉樹林帯の終点は同じ、東アジアの日本です。日本におけるシイ属は、アジアモンスーンの贈り物です。

後編では、スダジイの他にツブラジイについて触れた後、簡単なまとめをしてどんぐりころころのシリーズを終了します。

スダジイCastanopsis sieboldii(カスタノプシス シーボルディー)ブナ科シイ属には各地に巨木があります。国内有数の巨木である、千葉県匝瑳(そうさ)市安久山の大シイ。幹回り10m、樹高は30m近くあり、なんと、推定樹齢は1000年です。この樹種は老木になると板根が発達するのでイタジイとの別名もあります。この板根は私の背丈以上の高さでした。日本一のスダジイ巨木は、伊豆諸島の御蔵島にあります。

スダジイの樹皮は、縦に裂け目が生じ灰色で赤みを帯びています。葉裏が黄褐色なのがこの樹種の特徴なので、幹を見ながら空を見上げるとスダジイだと分かります。スダジイの材は堅いのですが、キノコ類が繁殖しやすく、材は腐りやすいので木材利用は難しいでしょう。老木になると幹に穴が開き、動物や昆虫にすみかを提供するようになります。

ツブラジイCastanopsis cuspidata(カスタノプシス カスピダータ)ブナ科シイ属。小さなシイの実を付けるので別名をコジイともいいます。種形容語のcuspidataとは、凸頭、突形を意味しどんぐりを包む殻斗の形状を示しています。それは、静岡県を北限に台湾、中国南部まで原生する常緑の高木です。

スダジイCastanopsis sieboldiiと、ツブラジイCastanopsis cuspidata の違い。樹木を見るとツブラジイの方が、葉が小さきゃしゃですが、あまり大きな違いは見られません。しかし、どんぐりを比較するとかなり違うのが実感できます。ツブラジイは漢字で円椎と書き、つぶらなどんぐりです。その差異を、写真で確認しましょう。

1. 果実の大きさと形状の違い。
2. 果軸の太さ、長さと細さ。
3. 殻斗の半開と全開。
4. ヘソ部分の大きさが違うのが分かります。

スダジイのどんぐりを集めていて、妙な子に出会いました。3つともスダジイですが、一番右のどんぐりが三つ子(殻斗の中に3つの果実が同居)なのです。それは、イガの中に通常、3つ果実が入るクリに似ています。このあたりが Castanopsisといわれるゆえんなのかもしれません。

写真はシイの木保育園です。シイ属は、枝葉がよく茂るために、その木の下では、光を好む草本や陽樹たちの実生は成長できません。スダジイやツブラジイの実生は陰樹なので、そんな暗い林床に耐え忍ぶことができます。何かしらの原因で、森の大きな木が枯れると、その隙間は、これらの苗のうち、幾つかが成長を遂げ、ギャップを埋めていきます。そのようにシイ属は、照葉樹林帯における極相林を形成してきました。

22週間にわたり、ブナ科のどんぐりの木を掲載してきました。どんぐりの木々は、落葉広葉樹林においても、常緑広葉樹林においても森を構成する主要な木です。「木を見て森を見ず」との例えがあるように、個々の事柄は全体の中で把握することも必要なことです。どんぐりとその木々たちを知り、親しみ、理解すると森を俯瞰(ふかん)的に見ることができるかもしれません。

私は、日本のどんぐりを集めて、その木に触り何年かたちました。そして、どんぐりの木の下で、たくさん発芽したどんぐりを見ました。発芽とは、芽が出たことではなく、種から根が出る状態をいいます。どんぐりの根は例外を除き、いつも尖った方から出てきます。それはすべての種子に共通する法則。種まきの際に、尖った方を下にして種をまくと素直に根っこが大地に伸びていき、芽生が安定します。尖った方を上にすると、根が上から出るので苗転びの原因になりますので承知しておいてください。

種から芽が出てくることを出芽といいます。 パンジー、オシロイバナ、イネやコムギなど多くの植物は、発芽のエネルギーを胚乳にためます。お米は、胚乳です。ところが、どんぐりの種子に胚乳はありません。そのような種子を無胚乳種子といいます。どんぐりの栄養は、子葉にたまるようになっています。それは、胚乳より大きな栄養の貯蔵庫です。森での生存競争は、生まれたときから始まります。発芽するエネルギーが大きければ誰よりも早く大きくなれるということです。種子も進化していくのです。

どんぐりの子葉(双葉)を見たことがありますか? ブナ属を除く、クリ属、コナラ属、マテバシイ属、シイ属は、子葉(双葉)を地上に展開させない省エネ型です。子葉は地下のどんぐり内部で、単なるエネルギーの貯蔵庫に徹しているのです。

どんぐりを付ける、どんぐりの木々たち。それは、地球上で最も多い樹木の一つ、最も繁栄している樹種の一つです。どんぐりは、森の生態系の出発点として、その栄養は、多くの小動物を支えています。

アカネズミApodemus speciosusネズミ科アカネズミ属などは、どんぐりを主な餌にします。そして食料としてのどんぐりを集めて蓄える性質があります。このネズミが食べきれない、もしくは、ためておいて忘れたどんぐりが、親株以外の場所で芽を出しどんぐりたちの生息域が広がります。

他の齧歯(げっし)類やカケスなど鳥類の貯食行動は、どんぐりたちを土に埋めます。それは、ある意味、動物たちが、種まきをしているのと同じです。どんぐりたちが繁栄しているのは、森の動物たちとの共存共栄の関係ができているからです。

今まで、主に日本のどんぐりを見てきて、どのような木にどのようなどんぐりがなるのか分かりました。同時に、どんぐりの木々が、森の動物を養うこと。ご先祖様の食を支え、住まいを提供し、薪炭(しんたん)となって人々を暖めたこと。大航海時代になくてはならない船の材となった歴史を知りました。ウイスキーに香りを与え、ワインの栓になり、豚を養い、その葉で餅を包むこともあります。

さらに、どんぐりの木々たちは、緑化樹として道に植えられ、主要な食用キノコの苗床となり、子どもたちのおもちゃにもなります。どれだけ私たちは、どんぐりとその木々たちにお世話になっているのでしょうか。それは、私たち人類の糧、真の友人です。

人はなぜどんぐりが好きなのか? 答えは出たようです。

次回は「東アジア植物記 季節の節目に咲くセツブンソウ属」です。お楽しみに。

JADMA

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