タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

浅春の候 セツブンソウ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

浅春の候 セツブンソウ属

2021/03/16

近年は暖かい冬が続きました。亜熱帯地域に生える植物を、外に置いて、冬を越えた経験もあるかと思います。そんな植物たちも、今年の冬は耐え難い寒さだったに違いありません。それでも、2021年の寒い冬は終わりを迎え、花たちが咲き乱れる時節は、もうそこまで来ています。

ウメなど、早咲きの花木たちが咲きだしても、山地での木々の蕾は、まだ固く閉ざされたままです。それでも、いち早く春を告げる草花たちが咲きだしました。春夏秋冬、季節の区分を節分といいます。寒い冬が終わるのはうれしいものです。季節の移ろいを、いち早く告げるセツブンソウ(節分草)。数ある春の妖精といわれる植物の中でも、とりわけ早起きのお花です。

セツブンソウEranthis属は、ユーラシア大陸と日本に9種が生息しています。この属は、地表付近に1~1.5cmほどの球茎を持つ小さな多年草です。セツブンソウ属は、ヨーロッパでも、アジアでも、最も早くから花を咲かせる植物の一つとして知られ、2~3月に5~10cmの花茎を立ち上げ花被を頂生させます。

エランティス ヒエマリスEranthis hyemalisキンポウゲ科セツブンソウ属。属名のEranthisは、Era(区分)とanthis(花)の合成語です。種形容語のhyemalisとは、冬を意味しています。この種は、南ヨーロッパの森林斜面に原生していますが、他のヨーロッパの地域にもに広く導入されています。他に、大陸の西にもいくつかのセツブンソウ属が生息していますが、皆、花色は黄色です。

一方で、ユーラシア大陸の東側に分布する種の花色は白です。

セツブンソウEranthis pinnatifida(エランティス ピンナッティフィダ)キンポウゲ科セツブンソウ属。種形容語のpinnatifidaとは、羽状の葉を持つという意味です。

セツブンソウは、日本の固有種であり、その分布は、日本の北関東地方から中国地方までの地域限定です。生息環境は、落葉広葉樹の疎林斜面、しかも石灰岩などの石で覆われたガレに生える傾向があります。セツブンソウの生息地では名残雪が大地を覆うように見えるほど、群生する性質があります。

セツブンソウは、生えているところでは数え切れないほどに群生するのですが、生息地は少なく、数えるほどしかない希少な植物です。寒さには強いのですが、北限分布は栃木県です。

セツブンソウの基本的なスペックです。地下に1cmほどの球状塊茎があり、白青緑色をした根出葉をわずかに出します。2~3月、5~10cmの赤紫色をした花茎を立ち上げ、白い花被を頂生させます。輪の大きさは2cmほど、花弁状の器官はがく片です。花の後ろに襟飾りのように輪生するのは苞葉です。

花被片は、基本的に5枚。黄色いYの字に見えるのが蜜腺となった花弁です。青紫色に見えるのが雄しべで多数あり、中心に赤紫色している雌しべ数本があります。

基本が5枚といったのは、この植物、がく片数、花弁数、雄しべ、雌しべの数がかなり適当だからです。このようなことは、キンポウゲ科の植物にはよくあることでもあります。

セツブンソウの繁殖は、もっぱら実生によります。こぼれた種は2月ごろ、たった1枚の葉を出します。2年目になると羽状の根出葉を付けますが、開花はまだ先の話です。花を咲かせることができるまで3~4年かかります。この小さな芽生が展開しているわずかな期間、春の日差しを独占できる環境が、この植物にとってとても大事なのです。

Eranthis pinnatifida albino form

群生するセツブンソウの中に、変異株を見つけました。それは根出葉や、花茎、苞葉が緑色、蜜腺となった花弁が黄色、やくや雌しべが赤紫ではなく白色です。この株を世界共通語の学名で呼ぶとEranthis pinnatifida albino form(アルビノフォーム)といいます。色以外のスペックは他のセツブンソウと変わりません。

Eranthis pinnatifida albino form

このようなセツブンソウの白系品種は、群落の中に散見されました。それは、Eranthis stellata(エランティス ステラータ)、 Eranthis lobulata(エランティス ロブラータ)など、東アジアの大陸部分に原生するいくつかの種に、近い形質のように見えます。

大陸の付加体として形成された日本列島の地歴は浅いです。昔から陸だった大陸で生まれたセツブンソウ属が各地で分化をして、その地には、その地のセツブンソウが進化してきたはずです。日本のセツブンソウはおそらく大陸に起源するのでしょう。その大陸由来の遺伝子が日本のセツブンソウに残っていても不思議ではありません。

セツブンソウ。小さな、小さな植物ですが、世界の各地で待ちに待った季節の到来、季節の分かれ目に花を咲かせています。

次回は「東アジア植物記 北を指す花 コンパス植物」です。お楽しみに。