小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
たねダンゴ(R)の来た道[その1]
2021/04/06
今では、全国都市緑化フェアやさまざまな地域、施設での緑花活動に「たねダンゴ」が活用される機会が増えました。園児、児童への、保育、教育の一環としても「たねダンゴ」作りの活動が広く行われています。その「たねダンゴ」とは、どのようなもので、なぜ人々の共感を得ているのでしょう? この機会に、開発に携わり広めた人間として「たねダンゴ」とは何か? そして、どのように生まれたのか、記録にとどめておこうと思います。
全国都市緑化フェアは、毎年、持ち回りで行われる地方の花と緑の祭典です。主催は、各自治体と公益財団法人 都市緑化機構です。2017年は、横浜市で都市緑化フェアが行われました。前年の11月、家庭園芸普及協会の指導の下、市民の手で「たねダンゴ」作りが行われ。花壇に植え付けられました。
秋まきの「たねダンゴ」に使われた種(タネ)は、6種類。
・ヒメキンギョソウ マロッカナ ミックス
・ネモフィラ インシグニスブルー
・エスコルチア シングル ミックス
・シロバナカスミソウ コベントガーデン
・ヤグルマギク サイナス ミックス
・アグロステンマ パープルクイーン
今までの経験上から、秋まき「たねダンゴ」に最も適した種類です。
横浜は、海洋性気候であり、冬も比較的暖かく、「たねダンゴ」は2週間ほどで出芽し、冬を迎えました。
翌年春2月、最も早く開花するのはヒメキンギョソウです。3月上旬になるとネモフィラの青い花が咲きだしました。4月の上旬になるとエスコルチアの開花です。秋まきの「たねダンゴ」に使っている種は、開花の時節をずらしながら咲くように設計してあります。
5月になると「たねダンゴ」花壇は、爆発するようにさまざまな花が咲き乱れます。その中でも目を引くのは、シロバナカスミソウ、ヤグルマギクとピンク色のアグロステンマです。10~30cmの高さで咲いていた、他の花々は1m近くに成長する、これらの花の下に隠れます。風に揺れる、花々は、素晴らしい花景色を生み出しました。
全国都市緑化よこはまフェアでの「たねダンゴ」花壇は、遠方の客船を背景に咲き乱れ、いかにも、横浜らしい「たねダンゴ」花壇になったのでした。
こちらは、よこはまフェアの翌年行われた全国都市緑化やまぐちフェアです。横浜での効果を確認した自治体担当者は、 「たねダンゴ」に関心を寄せました。フェアへの県民の参加を重視した自治体は、 「たねダンゴ」での緑化を計画し、1200人の山口県民の方々が「たねダンゴ」作りに参加し、そのダンゴ総数は3万個にもなりました。私も一人で300人の方に「たねダンゴ」作りを教えました。
宮城県の女川小学校での「たねダンゴ」作りの授業です。45分で3クラスの児童が「たねダンゴ」を作り、1人1つのプランターに「たねダンゴ」を4個植え付けます。
結果はこの通りです。「たねダンゴ」は、時期と種を選べば、誰でも楽しく簡単に花壇を作ったり、プランターに花を咲かせることができます。それは、新しい種まきの手法なのです。
こちらは、同日に女川市の市民の方々と一緒に作った「たねダンゴ」が咲いた景色です。防潮堤を造らない決心をした女川の駅前は、どこよりも早く商店街が復興した地域の一つ。前面に女川の港が見えています。「たねダンゴ」だと、6月に種をまくと、2カ月でこのような景色が出来上がります。
「たねダンゴ」での村おこしの事例です。山梨県上野原市棡原地域。花による美しい地域づくりをしたいとの相談を受け、「たねダンゴ」での緑花を提案しました。
2013年10月、地域の方々がこぞって参加し「たねダンゴ」作り作業が行われました。経過は順調だったのですが、翌年2月、関東には珍しい大雪が降りました。この地域では1mを超える雪が積もり集落が孤立し、自衛隊が出動する事態になりました。1カ月ほど「たねダンゴ」の苗は雪に埋もれたのです。
5月、積雪の影響はなく、同地域に「たねダンゴ」沿道花壇ができました。10月に種がまかれ、1カ月雪の下に埋もれても「たねダンゴ」は大丈夫だったのです。ここは、お年寄りの多い地域ですが、皆さんこぞって「たねダンゴ」作りと見守りに参加し、見事に花を咲かせました。 花が咲くとみんなで花狩りをして切り花を持って帰ります。仏壇の花に不自由しないとおばあちゃんが喜んでいました。
「たねダンゴ」という花を咲かせる技法は、ダンゴ作りで人が集い、植物の成長を見守る共同作業を通じて、絆を深める活動です。そして、適度な運動も加味されます。それは、新しい園芸的、地域的コミュニケーションの手法でもありす。
[その1]では「たねダンゴ」によってつくられた景色と、「たねダンゴ」作りの効能について説明しました。
次回の[その2]は、 「たねダンゴ」がどのように生まれたのかのお話です。
次回は「たねダンゴ(R)の来た道[その2]」です。お楽しみに。
注釈
「たねダンゴ」は公益社団法人 日本家庭園芸普及協会が、皆さんのために何の制約もなく楽しめるように商標登録をしたものです。
より詳しく知りたい方は、下記へご連絡ください。
公益社団法人 日本家庭園芸普及協会 TEL:03-3249-0681