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ユズリハの歳時記

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ユズリハの歳時記

2021/04/30

劇的に古い葉と新しい葉の交代劇を見せるユズリハ。古くから、つつがなく親から子への世代交代、家やなりわいの引き継ぎを象徴する植物とされてきました。このユズリハは、樹姿が美しく見どころも多い常緑樹でもあります。その植物を一年間見つめてみました。

ユズリハDaphniphyllum macropodum(ダフニフィルム マクロポダム)ユズリハ科ユズリハ属。この植物は、トウダイグサ科とされてきましたが、APG分類体系ではユズリハ科が新設され、独立の科とされます。この科は、ユズリハ属のみで構成される、一科一属の植物グループです。

ユズリハの学名解説です。Daphniphyllum macropodum。属名は、Daphne(女神ダフネ)+phyllum(葉)の合成語です。学名的にDaphne は、ジンチョウゲ属を意味しますが、神話的にはDaphneはゲッケイジュ(月桂樹)を意味しますので、この場合、ゲッケイジュの葉に似るという解釈が正しいと思います。

ユズリハの種形容語macropodumは、長い柄と太い茎を意味します。それは、この写真を見てもらえば分かるでしょう。ユズリハの成木は、素晴らしい体格を持ち、礼儀正しく枝葉を傘状に広げます。この植物は、大きくなる印象がありませんが、写真のモデルは樹高6mの大木です。『日本一の巨木図鑑』によると、最大サイズの木は、樹高14.5m、幹周3.45m、推定樹齢300年です。ユズリハは、堂々とした常緑の高木なのです。

ユズリハの分布北限は南東北。日本で一番大きなユズリハは栃木県で確認されています。日本の南限は沖縄。海外では朝鮮半島南部~中国南部に産するところを考えると、中国大陸から朝鮮半島を経由して日本に分布を広げた種だろうと推定します。堂々とした体つき、白い樹皮表面に、皮目を持ちます。皮目は、植物用語において「かわめ」ではなく、「ひもく」といいます。それは、樹皮の表面にできる呼吸用の穴です。

春、4月下旬~5月上旬に、ユズリハは、前年に伸びた枝の葉腋から総状花序を出します。花には花弁や匂いがありません。この植物は雌雄異株ですが、雌雄の区別は花を咲かせる成木になるまで不可能です。花が咲いて初めて、性別が確認できます。

ユズリハの雌花のアップ写真です。図鑑などには、花弁もがく片もないと書かれているものがあります。雌花には小さいながらがく片が確認できました。1cmに満たない子房の基部に、緑のがく片が見えます。ピンク色の苞葉もあります。

こちらは雄花です。がく片は見当たりません。蕾は、赤い房のように垂れ下がり、葯(やく)が開くと褐色になり大量の花粉を出します。風媒花において雄花の戦略は単純明快、「数打てば当たる」ということです。

夏、7~8月。受精に成功した雌花には実が付きます。柄を持つ小さな果実が、円錐(すい)形に並んでいます。ユズリハの果実は果肉を持ち、種(タネ)が中心にある核果です。

ユズリハの葉は互生で、らせん状に枝先に集まります。形は楕円(だえん)形で先端が尖り、革質で全縁となります。葉身は、長さ15cm、葉柄は長さ5cmが標準。この植物は、暑い夏でも居心地がよいのでしょう。何のストレスも感じずにスクスクと成長します。

秋、10~11月。ユズリハは、寒くなると低温ストレスから、葉柄が赤くなります。春に新しい若葉と古い葉の交代劇を演じるユズリハですが、寒さに当たると古い葉の一部が黄変して一斉に葉を落とすことがあります。

冬、12~1月。ユズリハの果実が熟します。表面が白い粉に覆われた紺色の果実。長さは約1cm程度あり、意外と美しく食べられそうな気もします。鳥の食料になっているようですが、一般の動物には有毒です。

日本に原生する他の、ユズリハ属を紹介しておきます。

北海道や日本海側の山地には、ユズリハの亜種が原生しています。エゾユズリハ(Daphniphyllum macropodum subsp. humile)、亜種名のhumileとは小さい、小型を意味しています。このエゾユズリハは、1~2m程度の小型種で、あまり大きくなりません。多く雪の降る地域に適応したユズリハの亜種です。

一方、日本の中部以南の暖地海岸林には、ヒメユズリハ(Daphniphyllum teijsmannii)ユズリハ科ユズリハ属。ダフニフィルム テイスマニーが原生します。種形容語のteijsmanniiは、オランダの園芸家 Johannes Elias Teijsmann(ヨハネス・エリアス・テイスマン)にちなみます。ユズリハ同様の常緑の高木ですが、ヒメユズリハはより暖地性であり繊細な感じがするユズリハ属です。

ヒマラヤから、東アジア周辺に原生するユズリハの仲間に、葉に斑の入る園芸種もあります。それは、味わい深い常緑樹なのでした。

次回は、特徴的で小さな青い花を付けるタツナミソウについてのお話です。お楽しみに。

JADMA

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