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連載

サガリバナ科 サガリバナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

サガリバナ科 サガリバナ

2021/06/15

北半球最南端の凍結する海と、世界最北端のサンゴ礁を育む場所。東アジアの最も東端に位置し、豊富な雨に恵まれている私たちの国土。ここでは、暑い地域から寒い場所までに生息する、さまざまな植物に出合うことができます。今回は、インド洋沿岸域やアジアの熱帯域を主なすみかにする植物の話です。

世界の亜熱帯、熱帯の沿岸汽水域には、マングローブと呼ばれる塩性湿地生態系が出来上がります。それは、世界の100以上の国と地域に存在します。南北に長いわが国には、世界最北端のマングローブがあります。

マングローブに生える樹種は100種以上。直接、海に接する前列は潮汐作用によって海水につかり、あるいは干上がります。塩類濃度の変化、水量の変化、温度変化などが激しい場所です。そこには、特別にそれらの耐性を獲得したヒルギ科の植物が生えています。

マングローブ林の下には、細かな有機物が無機物とともに堆積してドロドロ状態。泥の中は、植物の成長に必要な酸素が少なく、特殊な気根という器官を発達させて行く手を阻みます。その中に道はなく、交通路は舟となります。

通常、マングローブの中を移動するときは、舟を利用することになります。海水の影響が少ない場所になるとヒルギ科の植物は消え、植生が違ってきます。ここは、西表島の仲間川の中流域です。サガリバナは、マングローブの後方に位置した川沿いの湿地、水分の多い環境に生えています。

川沿いの湿地に上陸して散策すると、特徴のある下向きの総状花序を見つけました。それは、サガリバナに独特の形状であり、その植物に違いありません。でも花が咲いていてナンボ。花はどこにあるのでしょう。

今度は、蕾を見つけましたが、花を見ることができませんでした。目的植物の開花に出合うのは、開花時期以外に時間的なタイミングが必要なこともあります。夏は、サガリバナの開花時期なのですが、その花は夜に開花し、朝には散ってしまうものなのでした。

サガリバナBarringtonia racemoseバリントニア ラセモセ)サガリバナ科サガリバナ属。属名のBarringtoniaは、18世紀のイギリスの法律家であり博物学者でもあるDaines Barrington( デイネス バリントン)に献名されています。種形容語のracemoseとは、 ブドウのように、花軸を持った花が並んで連なった状態を指しています。racemus =1房のブドウを語源とするものです。植物用語ではそれを総状花序といいます。

サガリバナは、熱帯もしくは亜熱帯に生息する常緑の高木で10m程度の大きさでした。葉は革質で大きく枝先に束生しています。

サガリバナは、直径5cm程度の花被を夜間に開花させ、明け方には、その花を落としてしまいます。一夜限りにほのかな香りを出し、散ってゆくサガリバナの花、訪花昆虫総量が豊富な熱帯では、花を長く咲かせておく必要がないのだと思います。熱帯の川辺に浮かぶ散り花。それはサガリバナ独特の風情だと思います。

サガリバナの花被の仕様書です。花を付ける総状花序は葉腋に付きます。子房は花の外にあるので子房下位です。がく片4枚、花弁4枚、雌しべは1本、雄しべは多数です。数えるのも難儀するその数は、200本以上ありました。サガリバナは、とてもエキゾチックな花ですが、このサガリバナ科の植物の中には、もっと奇妙奇天烈摩訶不思議な植物があります。

東アジアに原生はありませんが、この機会に紹介しておこうと思います。

次回は「サガリバナ科 ホウガンボク」です。お楽しみに。

JADMA

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