小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
サガリバナ科 ホウガンボク
2021/06/22
サガリバナ科の植物は、300種ほどが南半球の熱帯を中心に分布しています。遠い異国に暮らす彼らとは、普段は出合う機会がありません。それでも、前回で紹介したサガリバナなど、ごく少数が東アジア南部に分布しています。先週、世にも奇妙な植物を紹介しますといいました。サガリバナ科サガリバナ属の、別種を一つ紹介してから予告の植物が登場します。
その植物と出合ったのは、東アジア最南端といえる場所、中国のシーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州でした。ここは、ラオスとの国境に近接する熱帯地域です。
そこの池の畔で見たのは、明らかにサガリバナ風の植物でした。
バーリングトニア アクタングラBarringtonia acutangulaサガリバナ科サガリバナ属。種形容語のacutangulaは、 鋭角という意味です。それは、葉の形に由来するのだと思いますが真偽は不明です。
バーリングトニア アクタングラは、50cm程度の長い総状花序で、小さな花被を持っています。東アジア南部からオーストラリア北部の淡水系湿地に生えるサガリバナの仲間です。
この植物は、花がきれいだから水辺に植えて観賞用になるのでしょう。でも、ベトナムなどでは、若葉は肉やエビなどと一緒に食べる野菜だといわれます。世の中には妙な食べ物があるものです。どんな味がするのでしょうか?
さて、本題の変なサガリバナ科の植物のお話です。その植物を見たとき、「エーなんだこれ!!びっくりドッキリ」と、とにかく驚きました。その姿は、どこかの映画で見た「たたり神」としか思えません。モゾモゾと動きそうな様子があり、植物怪獣にふさわしいお姿でもあります。
ホウガンボク(砲丸木)Couroupita guianensis(クールピタ・ギアネンシス)サガリバナ科クールピタ属。種形容語のguianensis は、ガイアナ共和国(Republic of Guyana)か、フランス領ギアナ<(ギュイヤンヌ・フランセーズ)Guyane française)>、どちらかの国名を表すのですが、学名のスペリングが間違っているのでよく分りません。どちらにせよ、南アメリカ北東部アマゾン地域の熱帯に原生する30m程度に育つ熱帯の高木です。上の写真は、全体像を示すために、細切れに写真を撮り、そのパーツを組み合わせたものです。
この植物がホウガンボクといわれるゆえんです。この植物の果実は一年を経て、20cmくらいの直径を持った球体に成熟していくのでした。果皮は木質、その姿は、まるで、火砲(大砲)の一種であるキャノン砲の砲丸です。英語でも、この植物をCannonball tree(キャノンボールツリー)といいます。
これが、ホウガンボクの花です。サガリバナ科としての、共通点を見つけることは困難です。強いて言えば、一日花であること、多数の雄しべがあることだけは似ています。顎ひげのような飾り雄しべがあり。上顎の真ん中に、雌しべと思われる器官が確認できます。
花をアップしてみました。今までいろいろな花を見てきましたが、私の辞書にない花被です。どうしてこのように咲くのでしょうか? それは、訪花昆虫あるいは、訪花動物に効果的に交配をしてもらうためであることは、間違いありません。
幹からモジャモジャと御たたり様のうように出ていものは、花の軸だったのです。幹から直接、花もしくは花軸を出す現象を幹生花といいます。それは、高い樹冠に花や実がなると、鳥や木登りの上手な動物には都合がよいのですが、木登りの下手な動物もいるでしょう。そうした動物に果実を食べてもらい、種子の散布を委託するため、比較的低い位置に実を付けるようになった結果、梢でなく、幹に花を咲かせるように進化したのでした。
通常、花軸は、花や果実が終わるとその役割を終え、脱落するか、枯れるものです。しかし、このホウガンボクは、その花軸が永続的に残り、主幹に付いたままになるのです。それが、この植物が、御たたり様になる理由です。
口を開いて今にも襲いかかってくるような、花被を持つホウガンボク。南米に原生する植物ですが、南アジアに伝わり、いつの間にか仏教の聖木とされています。お釈迦様入滅の際に咲いていたとされる、沙羅双樹Shorea robusta(フタバガキ科サラノキ属)とどこかで、この植物が混同されているのです。度を過ぎた異形故に、恐れが畏れに変化したのでしょうか? そういえば、仏教にも異形の仏様がたくさんいて、畏怖されているのと似ています。
次回は、「月の桃 ゲットウ」です。お楽しみに。