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月の桃 ゲットウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

月の桃 ゲットウ

2021/07/06

ゲットウは、沖縄などでは、ちょっとした空き地や、やぶに生えるショウガ科の有用植物です。餅を蒸した葉で包んだり、乾燥した葉を虫よけ、特にゴキブリよけにするなど民間利用も行われています。花もきれいなことからShell ginger(シェルジンジャー)と呼ばれ、世界中の熱帯、亜熱帯地域では、観賞用に植栽もされている植物です。

月桃(ゲットウ)という和名は、この蕾のイメージから付いたものでしょう。白い肌にピンクの先紅はなまめかしく白桃を連想させます。中国語でこの植物をYue tao(ユエ タオ)といいますので、その名前は中国語をそのまま日本語読みに置き換えたものです。元々は、台湾の呼び名らしいのです。

ゲットウ(月桃)Alpinia zerumbet(アルピニア ツェルンベット)ショウガ科ハナミョウガ属。属名のAlpiniaは、17世紀中東の植物を研究した、イタリア人植物学者Prospero Alpini(プロスペロ・アルピーニ)氏に献名されたものです。種形容語のzerumbetの意味はよく分かりませんでした。もしかしたら、植物色素の分離実験でクロマトグラフィーの原理を発見した、ロシア人植物学者 Михаил Семёнович Цвет(ミハイル・セミョーノヴィチ・ツヴェット)に献名されたものかもしれません。

ショウガの仲間のほとんどが有用植物であり、香辛料などに利用されます。それらは大きな地下茎を分岐させ、その先端から地上に偽茎を伸ばし生育します。ショウガ科の植物は、大体同じような姿をしていて、左右2列に葉を付ける構造です。ショウガ科の葉を支える偽茎について説明を加えます。

ゲットウも、ショウガ科独特の草姿をしています。ゲットウの背丈は1~2mにもなります。茎のように見えるのは、葉鞘(ようしょう)※が重なり合っているものです。

※葉鞘(ようしょう)とは、葉の付け根が鞘状となり茎を包む器官のことをいいます。

ゲットウと同じような構造をしているミョウガZingiber miogaショウガ科ショウガ属の茎を分解してみました。茎のように見える構造は、葉鞘が一枚一枚折り重なっているだけでした。一見、茎に見える、このような器官を植物用語で偽茎と呼びます。

偽茎の写真です。このような茎状の器官は、ショウガ科などに見られます。それは、茎ではなく葉が折り重なっているものだったのです。

ショウガ科Zingiberaceae(ジンギベラセア)は、東南アジアを分布の中心として世界の熱帯に広く生息しています。ゲットウAlpinia zerumbetは、熱帯アジアに原生とされ、有用故に持ち込まれた植物との見解もあるようです。しかし、沖縄などでは、さまざまなところに自生が見られることから、大陸とつながっていた時代に、自然に分布が広がったと考えることもできると思います。

ゲットウの葉は互生で、幅10cm、長さ50cmほどにもなります。手で触るとしっとりと油分を含んでいるように感じます。葉には独特の香りがあり、お茶にしたり、乾燥して抗菌、防虫、消臭などの効果を期待されて利用されています。

古民家風の喫茶店のメニューに、ゲットウジュースなるものがあり、早速、注文と相成りました。健康飲料であり、アンチエイジングになるという触れ込みです。でもこれ、好みが分かれる味だと思います。

成熟したゲットウは、夏に偽茎の先から30cmほどの総状花序を出し開花します。小さな貝殻みたいな白い蕾ですが、開花すると中身は黄色。雌しべが雄々しいというのは変ですが、やたら目立ちます。中心にはオレンジのしま模様があり蜜標となっています。ゲットウの花は、エキゾチックな色合いで観賞利用に適するでしょう。

受粉に成功すると子房が膨らみ実を付けます。秋に果実は赤く色づき、それをお茶にしたり飾り物にしたり。ゲットウは、葉、花、実と、とことん利用され尽くされるほど有用なのです。この植物は、本来、熱帯の植物なのですが、環境耐性が強く簡単な霜よけ程度で西南暖地や、南関東では宿根草として楽しむことが可能です。サカタのタネ ガーデンセンター横浜などでは苗が手に入ります。ご自宅の庭で楽しんでみてはいかがでしょう。

次回は「密林に生きる[前編] 緋桐(ヒギリ)」です。お楽しみに。

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