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密林に生きる[後編] バナナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

密林に生きる[後編] バナナ

2021/07/20

車で山あいの道路を走っていると、野生動物が道路上にいることがあります。私はシカと遭遇したことがあります。無事にすんだのですが、交通事故は双方にとって痛ましいもの、注意して運転しなければなりません。東アジアの最南端で車を運転中のこと、「野生ゾウの通り道」という道路標識を見ました。

エーッ、まさか! これ高速道路です。車道と野生ゾウの通り道は分けないと危ないよ! それと、高速道路の側道でマンゴーを売ったり、クワを持って高速道路を歩かないでほしい! まったくのどか過ぎる辺境の地です。看板に示された、アジアゾウは、地球全体で13の地域に分布しているとされ、この地域にも生息しています。

中国の雲南南部には、アジアゾウの保護区があります。そこは、国境付近の熱帯雨林です。木々たちがうっそうと茂る密林に、ゾウたちはどのように暮らしているのでしょう。

雲南の保護区における生息数は300頭前後と考えられています。生息地の保全活動により、絶滅危惧種から危急種になったジャイアントパンダが1800頭ほどとされていますので、その数は少ないといわなければなりません。

大きなゾウは食欲旺盛で、生息には広大なテリトリーが必要です。同時に、その縄張りを移動する手段がなくてはなりません。密林には車道や林道はなく、獣道すら作るのは困難だったのでした。よく観察すると、密林にはゾウの道があることに気が付きました。それは川です。ゾウたちの移動に適した、川があったのです。

その道(エレファントハイウェー)は、密林のそこかしこに通じていました。ゾウたちは、川を生活のインフラに利用して暮らしている様子です。飲料水に困ることもないでしょう。

野生ゾウの観察ポイントに着きました。そこでは、ゾウの道(エレファントハイウェー)から一群のゾウたちが現れました。

オッパイの膨らんだ母親ゾウの近くには、赤ちゃんゾウ、子ゾウ、若ゾウと家族単位で暮らしているのでしょう。常に赤ちゃんゾウを輪の内側に置き、他からは見えないようにしています。野生ゾウとはいえ、保護区で暮らしているために、人を恐れる様子がありません。

この地域最大の哺乳動物であるアジアゾウたち。最も力を持つ、この生き物であっても、熱帯雨林が生い茂る中で暮らすのは、難しいことでしょう。ゾウたちは、その道から現れて、川の向こうに消えていきました。

密林の、ゾウの道に下りてみました。そこで見たものは、水辺など湿った土地を好む、バナナの原種だったのです。動物園でもゾウがバナナを食べるところを見ました。野生のバナナはこの動物の好物だと聞きます。

マレーヤマバショウMusa acuminata(ムサ アクミナータ)バショウ科バショウ属。属名のMusaは、分類学の父と呼ばれるCarl von Linné(カール・フォン・リンネ)の命名で、果実を意味するアラビア語らしいです。種形容語のacuminataは、 acuminatus=先が次第に尖った、だんだんと細くなる、先鋭のという意味です。それは、花の形状を指すのだと思います。花被の先端は確かに鋭く尖っていますが、それを指すのかは不明です。

バショウ(Musa)属は、南アジアを中心に30~70種ともいわれる種があります。数字が大きくブレるのは、学者によって見解が分かれるからでしょう。作物の実を食べるバナナは、このマレーヤマバショウを主な原種として作り出されたものです。バショウ属は地下の茎から偽茎を立ち上げ、草本類最大級の葉を付ける植物です。偽茎に関しては前々回のゲットウの記事を参考にしてください。赤い花は、前回紹介したヒギリです。

こちらは、同じ科のウンナンチユウキンレン(雲南地湧金蓮)Musella lasiocarpa(ムセラ ラシオカルパ)バショウ科ムセラ属です。開花した偽茎は枯れ、バナナ状の実がなります。これ、甘くておいしいのです。バナナの原種であるマレーヤマバショウの実も、この写真のように硬い種(タネ)をたくさん付けます。おそらくゾウたちのすまう地域に生えるバナナは、ゾウたちによって食べられ、その道沿いに、肥料付きで種がまかれて、ゾウたちと共に暮らしているのでしょう。

次回は、名前の印象が悪いこともありなかなか日本で評価されない実力者、クサギ属のお話です。お楽しみに。

JADMA

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