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クサギ属[前編] クサギ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

クサギ属[前編] クサギ

2021/07/27

世の中には一面的にしか見られず、不遇な境遇に置かれるものがあります。クサギ(臭木)も、そのような扱いを受けているかもしれません。その名前からは、あまり関わりたくない、遠ざけたいという感情しか出てこないと思います。そのようなわけで、この植物は日本では、あまり人気があるとは言いにくいのです。ところが、先入観のない外国では珍重され、Beautifulとか、Fantasticとか言われて愛されます。「捨てる神あれば拾う神あり」なのです。

クサギClerodendrum trichotomum(クレロデンドルム トリコトマム)シソ科クサギ属。属名のClerodendrumの命名者は、分類学の父と呼ばれるCarl von Linné(カール・フォン・リンネ)です。意味は、Cleros (運命、偶然、聖職者)+dendroides(樹木)の合成語であって、この木の医学上か呪術上、あるいは宗教上の重要性故の命名らしいのです。

和名のクサギは臭木の意味、葉をもんだりすると臭いにおいを発するからというのです。私はクサギ好き、少し弁明をしたいと思います。

この植物、思われているほど臭くありません。妙ではあるけれど、私はちっとも臭いと思っていません。そのにおいは、海外ではピーナツバターのようなにおいに感じられるみたいで、The peanut butter bushという別名もあります。

このラブリーな、花姿を見てください。大の字みたいな5枚に裂けた花弁、長く伸びた4本の雄しべと1本の雌しべ。おまけに周辺に甘い香りを放ちます。病害虫に強く、環境耐性があり、耐寒性落葉低木として家庭の庭に植えたいと思いませんか?

クサギのプロフィールです。原生域は、日本全土の他に、広い中国でもほとんどの地域、朝鮮半島、台湾など、東アジアのそこかしこに生育する分布域の広さを持ちます。生育環境は、原野、山地の林縁、路傍、線路沿いなど、日当たりがよく湿った場所であれば、土地をえり好みしない、雑木的強さをこの植物は持っています。

種形容語のtrichotomumは、trichotomus= (三つまたの、3分枝した) という意味です。花柄がホークのように、トリプルブランチしているのが分かります。

クサギの開花時期は、7月下旬~8月。梅雨明け後の真夏に花を咲かせます。花は甘い香りを漂わせ、アゲハチョウたちが飛んできて盛んに蜜を吸います。アメリカ大陸のハチドリたちは、この花が大好物だそうです。

クサギの花は、両性花ですが、雄性先熟といって、雌しべと雄しべの熟期が違います。自らの花粉で自家受粉しないように工夫しているのです。生物のDNAは、自分と違った組み合わせを求めています。自分の子孫に多様性があれば、予想される環境の変化に順応できる可能性が高まるのです。生物は自分と違った遺伝子を本能的に求めているのだと思います。

クサギの花は3日ほど咲きます。

①最初は雄しべが上に反って、葯(やく)から花粉が出る雄花です。このとき、雌しべは下向きに垂れ機能していません。

②次に雄しべがしおれ、下垂して役割を終えます。このとき雌しべは立ち上がり、花粉を受け入れることができる雌花です。

このように、クサギは一つの花で、2度楽しめるのです。

花が咲いた後、9月に、クサギの花を包んでいた白い5枚のがく片は、赤く色づきます。果実はこの段階では色がありません。ところがです。この後、クサギは劇的に変化を遂げます。

秋10月になると、クサギの実は2色の美しいコントラストを示します。その果実とがくの色合い、自然配色の素晴らしさに感服です。それにしても、徒長枝で樹姿が暴れる木です。でも、トリミング(剪定)をすれば形のよい庭木にするのは可能です。

海外でも、クサギはその実の美しさで人気があります。英語でHarlequin glory bowerと記されていますが、どのように訳すればよいのでしょう? 私は、「道化師のご満悦な木陰」としましたが、あまり意味が通じない気もします。クサギの青い実が道化師のだんご鼻にも見えます。

青い実、赤いがくは、多くの小鳥を引き付けます。この実が鳥類などに食べられることで、クサギの種分散が生じ、拡散していく仕組みです。クサギは、東アジアの全域に生息域を広げることに成功しました。この色合いの実はクサギの戦略です。クサギは花粉の受粉にチョウを使い、種の拡散に小鳥を利用しています。

クサギは、
①どこでも育つ丈夫さ
②よい香りのするきれいな花を付ける
③若い葉は食用になる
④枝葉は漢方に利用
⑤実の美しさを観賞 
クサギは和名からくる風評を除けば、有用で優れものだったのでした。

次回は「クサギ属[後編] いろいろなクサギ」についてお話しします。お楽しみに。

JADMA

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