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クサギ属[後編] いろいろなクサギ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

クサギ属[後編] いろいろなクサギ

2021/08/03

以前クサギ属は、形態の類縁性や演繹(えんえき)的な考え方からクマツヅラ科という分類区分だったのです。近年は、葉緑体DNAのゲノムを解析して、植物の進化、分岐を判断する分類学が発展しました。その結果クサギ属はシソ科として認識されています。クサギ属は、アフリカとアジアが分布の中心です。日本には、前編で紹介した、クサギClerodendrum trichotomumとイボタクサギClerodendrum inermeの2種が原生しています。

クサギは、東アジアなら、あらゆるところで見ることができる普遍的な植物ですが、もう一種のイボタクサギは、ある特殊な環境に生えています。私がそれを初めて見たのは沖縄。オヒルギ、メヒルギが生い茂るマングローブの中でした。

イボタクサギClerodendrum inerme(クレロデンドルム イネルメ)シソ科クサギ属。種形容語のinermeは、とげのない、あらわな、無防備なさまを意味しています。この植物の茎葉にとげや繊毛がないからです。この植物、花が咲いていないとイボタノキとそっくりです。それは、見事な命名です。

一方、この植物は、マングローブの中だけではなく、海と陸とがせめぎ合う、先島諸島の砂浜でも見かけました。

そこでは、モンパノキHeliotropium foertherianumムラサキ科キダチルリソウ属の手前に、モジャモジャとした低木状となって、イボタクサギが白い花を咲かせていました。

イボタクサギは、Seaside clerodendrumとも呼ばれる海浜植物です。多くの場合、つる状のやぶを作る低木となります。強い日照、塩水高温など、強い環境耐性を持つ植物です。日本の南西諸島が分布の北限で、東アジア南部から太平洋の諸島を生息域にしています。

外国産種の紹介です。クレロデンドルム シネンセClerodendrum chinenseシソ科クサギ属。種形容語のchinenseは、中国の意味です。中国南部~東南アジア、ネパール、東ヒマラヤ周辺に原生する常緑の低木。2m程度に成長します。クレロデンドルム フィリピナムClerodendrum philippinum とも呼ばれますが、シノニム(異名)です。

クレロデンドルム シネンセには、バラのような八重咲きがあり、葉茎の頂点にまとまって咲きます。香りがよいので人気があり、世界中の熱帯、亜熱帯に植えられたのですが、持ち前の丈夫さで帰化して問題になっているといいます。そのような話は日本ではまだ聞きません。

ボタンクサギ(牡丹臭木)Clerodendrum bungei(クレロデンドルム ブンゲイ)シソ科クサギ属。種形容語のbungeiは、東アジアの植物を調べた、キエフ生まれのドイツ系ロシア人植物学者Alexander Georg von Bunge(アレクサンダー・ゲオルク・ブンゲ)に献名されています。直径15cmにもなる大きなクラスター(花の集合体)を夏に頂生させる植物です。

ボタンクサギの原生地は、台湾、ベトナム、中国中南部などとされています。半耐寒性なので、寒い地域では難しいかもしれませんが、横浜では何の問題もなく宿根性の落葉低木になります。開花時に芳香を放ち、1.5m程度に育ちますので観賞低木としても優れていると思います。

この植物、ベニバナクサギ、ヒマラヤクサギなどさまざまな名前を持ちます。色幅を持つピンク色の小さな花を密生させ、手まり状に咲くのでアジサイのような花姿になり、美しいのですが、やはり和名にある臭木の風評のせいで、正当な評価が得られていない様子です。

「密林に生きる[前編] 緋桐(ヒギリ)」で紹介したヒギリClerodendrum japonicum(クレロデンドルム ジャポニカム)シソ科クサギ属もまた、クサギの仲間であることは記述した通りです。クサギは、東アジア南部、東南アジアに多くの種を分化させています。 

最後にアフリカのクサギ類で、園芸植物として販売されている、クレロデンドルム ウガンデンセClerodendrum ugandenseシソ科クサギ属を紹介しておきます。種形容語のugandenseは、東アフリカの高原の国、ウガンダを表します。英語ではBlue butterfly flowerとも呼ばれます。直感として日本のカリガネソウによく似ていて類縁性が気になるところです。やはり、暖かく湿った土地さえあれば、帰化して自生してしまうほど丈夫な様子です。

いかがですか?
クサギ属には深刻な病害虫も見当たりませんし、環境耐性があり、有用で、美しい花とよい香りもある、素晴らしい植物群だと思います。願わくば、「臭木」という名前ではなく、彼らによい名前が与えられますように。

次回は「水の女神 スイレン属」です。お楽しみに。

JADMA

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