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ヤマハッカ属[後編] アキチョウジ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ヤマハッカ属[後編] アキチョウジ

2021/11/02

秋空のような花を付けるアキチョウジ、その透明感のある色合いは、この花でしか表現できないもの。野山で、この植物が花を咲かせていると感じるすがすがしさ。それでいて、ちょっと寂しげなセンチメンタルな雰囲気も秘めています。

アキチョウジIsodon longitubus(イソドン ロンギツバス)シソ科ヤマハッカ属。属名のIsodonとは、iso(等しい、よく似た)+(かぶり物)という意味で、この属の5列したがく片を表し、種形容語のlongitubusとは、 細長い花の形状からでしょう。長い管という意味です。

アキチョウジを『牧野新植物図鑑』では、別名をキリツボと表記してありました。その意味は書いてありません、その名は私が想像するに、今から1000年以上も昔の平安時代に書かれた、『源氏物語』にちなむのではないかと思います。

その物語の登場人物に、桐壺更衣(きりつぼのこうい)がいます。彼女は、天皇に仕え、衣装など身の回りの世話をする女官です。帝の部屋から遠い、桐壺という部屋にいました。帝の寵愛を一身に受け、子どもを生みますが、さほど身分が高くなかった彼女は、他の女性たちの反感を買います。恨み妬み、有形無形の嫌がらせによる心労から、3歳の幼子を残し夭折してしまったのでした。

桐壺の子どもは、光源氏といいました。彼は生涯、幼くして別れた母の面影を慕い続けていくのです。『源氏物語』は、印刷技術のない平安時代に書かれ、手書きによって本となり、読み継がれていったのです。楚々として、憂いを含む薄幸な女性である桐壺更衣。そのイメージが、この花の別名であるならすてきなことだと思います。

アキチョウジは、中国中東部と日本の中部地方から西の本州、四国、九州の山地、やや湿った林縁や道端に生息しています。背丈は1mほどになります。9~10月に枝先や葉腋から総状花序を伸ばし一方向にそろった花を咲かせます。

一方、本州中部以東にはセキヤノアキチョウジという近縁種が自生しています。

セキヤノアキチョウジIsodon effusus(イソドン エフサス)シソ科ヤマハッカ属。種形容語のeffususは、まばらに広がった、外に広がるという意味です。それは、後ほど説明しますが、セキヤノアキチョウジとアキチョウジの種としての区別性によることです。

セキヤノアキチョウジにIsodon effususという学名を付けたのは、Carl Johann Maximowicz (カール・ヨハン・マキシモヴィッチ)でした。彼は、ツンベルクやシーボルトの後に日本の植物相を研究したロシアの植物学者です。この植物の学名に使われたタイプ標本は、箱根で採取されたのです。セキヤとは関所を意味しているのです。

アキチョウジとセキヤノアキチョウジは、植物的にも雰囲気もよく似ています。両者は、本州中部を境にすみ分けているのです。アキチョウジは、他の東アジアにも分布はありますが、セキヤノアキチョウジは、中部以東の本州に分布し日本に固有の種とされています。

その大きな区別性は、花柄の長さによります。花柄が1cm以下と短いアキチョウジに対しセキヤノアキチョウジの花柄は2cm程度と長いのが普通です。それ故に学名のeffusus(エフサス)の通り広がったように見えるのだと思います。

さて、ヤマハッカ属の名前のもとになった、ヤマハッカの登場です。ヤマハッカ属には、100種ほどが知られ、そのほとんどは、東アジアに生息しています。日本には7種ほどが、山地の林縁などに原生しています。ヤマハッカ属は、山地に生え、葉がハッカ属(Mentha)に似ているという意味です。葉にハッカの匂いはありません。

ヤマハッカIsodon inflexus(イソドン インフレクサス)シソ科ヤマハッカ属。種形容語のinflexusは、内側に曲がったという意味です。それは、ヤマハッカの下弁が2裂し、内側に湾曲しているからです。上唇弁には青い斑紋があり、蜜標が見えます。アキチョウジが花を一方向に向けるのと違い、ヤマハッカは、花を輪生させています。

日本に生えるヤマハッカ属は、短日開花性を示し、涼しくなった時節に花を咲かせます。秋の野に出ると、ヤマハッカの仲間に出合えるかもしれません。

次回は「モミジハグマ属[前編] エンシュウハグマ」です。お楽しみに。

JADMA

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