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モミジハグマ属[後編] ハグマいろいろ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

モミジハグマ属[後編] ハグマいろいろ

2021/11/16

英文の資料を調べると、世界のモミジハグマ属は、ヒマラヤ周辺、インド、東南アジア、東アジアに生息していて68種ほどが記載されていました。学者によって種と認めるかどうか論争があると思うので、世界に50種ほどの種属だと大まかに考えておこうと思います。まずは東アジア、中国のモミジハグマ属から後編は始まります。

中華人民共和国雲南省の省都である昆明から南に40km、玉渓市Yù xī 梁王山Liángwángshān。標高2820m、11月中旬の様子です。この地域は雲南省のほぼ中央に位置しています。ここは、ガイドブックにもありませんし、まず日本人が訪れることはない山です。

昆明植物園の先生にせがんで、秋の花を見に行きました。この辺りの地歴は、とんでもなく古いのです。近くの山ではカンブリア期に生息した、妙ちくりんな生き物の化石が出土します。緯度は亜熱帯域にあるのですが、標高が高く、温度は日本と変わりませんが、冬季5度以下にはまずならず、夏でも30度以上にはなりません。しかし、年間降水量は日本の半分以下です。

山中にあって林道の脇は、人工の林縁を作ります。そこは、日当たりがよく、植物が豊富です。異国の、名も知らない花々に混ざって、見たことのある植物があるとほっとします。それは、どう見てもモミジハグマ属の植物でした。

「花は見たことがあるぞ」。でも、葉の形と雰囲気はお初です。

キク科モミジハグマ属の種Ainsliaea sp. (エインズリアエア エスピー)。種の同定はできていません。属名のAinsliaeaとは、19世紀のイギリス人、東インド会社の医師。Whitelaw Ainslie(ホワイトロー・エインズリー)に献名されています。彼は、インド軍隊員の健康を改善するために、インドに産する薬用植物に関する書物を、最初に出版したことで知られています。モミジハグマ属は、インド亜大陸にも生息していますので、彼の薬用植物のリストにあったはずです。

私が、これをモミジハグマ属だと断定する理由は、この写真です。1つの頭花に3つの小花を確認しました。所変われば品が違いますが、属としての基本は同じということです。

日本原産のモミジハグマ属で最も普遍的に見掛けることが多いのは、キッコウハグマだと思います。

キッコウハグマAinsliaea apiculate(エインズリアエア アピクラータ)キク科モミジハグマ属。写真の左下に小さな松ぼっくりが落ちていますので、サイズ感はお分かりいただけたでしょう。この植物は、北海道、本州、四国、九州と朝鮮半島南部に分布しています。

キッコウハグマの種形容語のapiculataは、apiculatus=小尖頭の、頂部に小突起があるという意味です。写真を見てみましょう。花の上方に 、細い蕾が見えます。これは、キッコウハグマの閉鎖花です。それは、開花しないで自家受粉によって種(タネ)を付けます。やりのように尖ったこの閉鎖花を、apiculatus=小尖頭というのに違いありません。

キッコウハグマの花の大きさは、1cmに届くかどうかという大きさです。早春のひとときに咲いてすぐに姿を消す、春の妖精と呼ばれる山草がありますが、キッコウハグマのことを私は秋の妖精と呼ぶことにします。花が咲いていないと小さなこの植物は、どこにいるのか分かりません。写真をよく見てください。小さくても、5裂した小花が3つ集まり頭花を構成しているのが分かります。それと、エンシュウハグマなどとは反対に左巻き、向かって右巻きに先端がカールしているのでした。

この写真は、東北の海岸林、黒松林で撮影しました。川沿いの薄暗いこけむした場所など、比較的生息する環境は多様ですが、通常やや明るい山地の斜面や、樹林下に生息しています。キッコウハグマのキッコウは、亀の甲羅のこと。名前は葉の形状に由来します。この植物は、地下茎から、葉身1~2cm、10本程度の根を放射状に出現させ、10cmほどの花茎を1本直立させて、秋に開放花、または閉鎖花を付けるのです。

オクモミジハグマAinsliaea acerifolia var. subapoda(エインズリアエア アセリフォリア バラエティ スバポダ)キク科モミジハグマ属。種形容語のacerifoliaは、Aser(カエデ)+folia(葉)の合成語です。ver.が付きますので 変種を表します。subapodaほとんど無柄という意味ですが、花柄が短いことを指すのだと思います。基本種は、モミジハグマAinsliaea acerifolia です。モミジハグマは、葉が深く切れ込み、関東以西の太平洋側の山地に生息していて日本に固有とされています。

オクモミジハグマは、体の作りが比較的大きなハグマ属で、通常60cm程度に育った株を見掛けます。生息する環境は、低山~山地の樹林下、林縁などです。関東から東の本州域、中部地方から西の本州や九州では日本海側に生え、朝鮮半島、中国東北部の沿海部などにも確認されています。

オクモミジハグマの花です。細い風車の花びらを数えると15枚です。雄しべ、雌しべが3本ずつありますので、5つに開裂した小花が、やはり3つ合わさって1つの頭花を構成しているのが分かります。花びらがキッコウハグマとは反対の向きに回転しているのも見てほしいです。モミジハグマ属の花の構造と特徴が理解できたと思います。それにしても幾何学的美しさを持つ植物ですね~。

次回は「タコノアシ属」です。お楽しみに。

JADMA

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