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毒の木[前編] ウルシ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

毒の木[前編] ウルシ属

2021/12/07

アレルギー反応の強い人は、ウルシと聞いただけでかゆくなるかもしれません。ウルシ属の植物は接触性の毒を持っていて、その学名はToxicodendron(トクシコデンドロン)といいます。意味は、Toxico(毒)+dendron(木)の合成語。つまり“毒の木”ということです。ウルシ属は、毒の木ですが、利用価値が高く、紅葉もきれい。私たちの生活に深く関わっている樹木でもあります。

ちょっと待って、ウルシ属の属名はRhous(ルス)ではなかったのか? と思った人は、植物に詳しい方です。ちょっと前までウルシ属の学名はRhousでした。昨今のDNA解析による、分子系統学であるAPG分類体系において、Rhous属は Toxicodendron(ウルシ属)とRhous(ヌルデ属)に分割されたのです。上の写真は、ヌルデ属に残されたルス グラブラRhus glabraウルシ科ヌルデ属。北米に広く原生する樹木です。果実が連なって赤く色づく様子が燃え盛る松明のように見えるので、中国名を「火炬樹」といいます。

さて、本題の毒の木についてです。まあ、なんという美しさでしょう。

ハゼノキToxicodendron succedaneum(トクシコデンドロン サックセダネウム)ウルシ科ウルシ属。ハゼノキは、木ろうも取れる実用木であり、観賞木としても、春の芽出しの美しさや、開花、結実など、変化変容の多い樹木。人々に季節感を与えてくれる植物です。

暖地性の落葉小高木、東アジア~東南アジアにかけての暖地に生息していて、日本の四国や九州などにも自生しているハゼノキは、南方から移入されたものであるといわれています。

左側のハゼノキは、幹や葉に毛がなく、ツルツルした印象があります。ハゼノキの葉は、9~15枚の小さな葉が集まった集合体で奇数羽状複葉といいます。ちなみに中央のカイノキの葉は12枚の偶数なので偶数羽状複葉。右側のタラヨウは、1枚なので単葉といいます。

ハゼノキの種形容語succedaneumは、代用の、もしくは、代理をする、という意味です。昔は電気がありませんでした。暗闇を照らすにはろうそくの明かりが頼りだったのです。そのろうそくは、ウルシの果皮に含まれるろう質(ワックス)から作られていたのでした。

ところが、ハゼノキが伝来してからは、種子が多く取れ、ろう質の含有率が高いことから、ハゼノキへと転作が進んだのです。種形容語のsuccedaneum(代用、代理)は、そのような歴史的経過を示すのだと思います。

ハゼノキは、渡来の樹木とされますが、日本の山野には、ハゼノキの近縁種のヤマハゼが原生しています。

ヤマハゼToxicodendron sylvestre(トクシコデンドロン シルベストル)ウルシ科ウルシ属。種形容語のsylvestreは、森林の、森林性、森林に生息する、を意味しています。ヤマハゼは、日本の関東以西の本州、四国、九州などにも原生する東アジアの落葉小高木です。

渡来のハゼノキと日本のヤマハゼの相違点です。ハゼノキには、葉や葉柄に毛がなくツルンとしています。葉は、9~15枚の奇数羽状複葉で小葉の数が多い。ヤマハゼはハゼノキより、若干小葉の数が少ない奇数羽状複葉であり、葉や葉柄に毛が生えています。右側の写真はヤマハゼの冬芽ですが、その芽にも毛が多い点でハゼノキと明確に区別できます。

ヤマハゼの冬芽の萌え出しは、爆発的です。堅くしまったヤマハゼの冬芽は陽光を浴びて緩み、一斉に葉や花芽が動き始めます。このころのヤマハゼは、急速に成長し命の躍動を見せてくれます。

ヤマハゼは、5月の連休が終わるころ、黄緑色の花を展開させます。小さく、地味な花なのですが、辺り一面にすがすがしいシトラスの香りを放ち、匂いに敏感な虫たちを呼び寄せます。機会があれば、ヤマハゼの香りを嗅いでみてください。私のお気に入りで、とてもよい香りです。

真夏の8月に、緑の果実が膨らんできました。しかし、種(タネ)が成熟するには、まだ、月日が必要です。ヤマハゼの実は、秋も深まった11~12月に熟し、冬を迎える森の小鳥たちにカロリーの高い食料を提供します。

次回は「毒の木[後編] ウルシ属とその周辺」です。お楽しみに。

JADMA

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