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世界球果図鑑[その31] ヒノキ属 後編

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その31] ヒノキ属 後編

2022/03/08

ヒノキChamaecyparis obtusaとサワラChamaecyparis pisiferaは、区別が難しいほどよく似ていて、両種が交配すると雑種を作ることが知られています。この他に太平洋を隔てた対岸の北アメリカのオレゴン州南部~カリフォルニア州北部に原生するヒノキ属の一つも、ヒノキやサワラとの間で雑種を作ることができます。それらは、元々は同じ種だったのが、生息環境の違いや地理的乖離(かいり)から少しずつ遺伝子が変化して、違う種に進化したのだと思います。

No.79 ローソンヒノキChamaecyparis lawsoniana(カマエキパリス ローソニアナ)ヒノキ科ヒノキ属。日本では米檜(ベイヒ)ともいいます。種形容語のlawsonianaは、どこかのコンビニ名みたいですが、19世紀、この樹木が北アメリカのオレゴン州で発見されて、イギリスのエディンバラのLawson and Son nursery(ローソン アンド サン ナーセリー)によって栽培的導入が行われたことに由来します。

北アメリカの北西部は、太平洋からの湿った空気が、ロッキー山脈などの海岸に沿った山岳を上る際に大量の雨を降らせます。そこは、世界でも有数の温帯雨林が発達しています。ローソンヒノキは、北緯43度50~35分の太平洋に近い地域に原生しています。この樹木は、サワラと同じように湿気を好み、川沿いや地下水位の高い場所に生息するヒノキ属です。

豊富な降雨は、そこに、世界的巨木の楽園をつくりました。このローソンヒノキも60mを超える大きさになるといいます。ローソンヒノキの樹皮は、サワラと同じようで褐色~灰褐色で、不規則に縦に細かく裂けます。

ローソンヒノキは鱗片(りんぺん)葉を付け、全体としてヒノキよりサワラによく似ています。枝はよく伸び、枝先が下垂していました。写真は4月、若い緑色の球果です。その大きさは1cm未満で、ヒノキより小さく、サワラより大きなサイズです。

ローソンヒノキの葉にも、葉の表と裏があるようで、裏に気孔線がありました。それは、サワラのような「X」字のように見えました。

球果もヒノキやサワラと同じように、受精後、秋に成熟し種(タネ)を散らし茶色になる1年生で、球果の成熟期について、ヒノキ属の特徴を備えています。

ローソンヒノキの球果は、種鱗(しゅりん)の中央部は突起とならず、サワラと同じようにくぼんでいます。サワラとローソンヒノキが作る球果がくぼむのは、これらの樹種が生える環境が、水分量が多く、球果の含水量が高いので、乾燥後に縮むのだと思います。ローソンヒノキの種鱗は少なく数えた範囲では7個が平均でした。

次にヒノキ属が原生しない、イギリスにおいて偶然によって生まれ、ヒノキと呼ばれている樹木を紹介します。

No.80 レイランドヒノキ×Cupressocyparis leylandii(雑種 クプレッスソキパリス レイランディー)ヒノキ科レイランドヒノキ属。この針葉樹、学名すら実は定かではありませんが、仮に記しておきます。leylandiiという種形容語は、19世紀イギリスの銀行家Christopher Leyland(クリストファー・レイランド)に献名されています。

レイランドヒノキは、イギリスのウェールズにおいて、 2種類の北米産のヒノキ科植物が植えられたことによって生じた属間雑種(種間かも知れない)とされています。

レイランドヒノキの母親は、アラスカヒノキChamaecyparis nootkatensis(カマエキパリス ヌートカテンシス)ヒノキ科ヒノキ属。父親は、モントレーサイプレスCupressus macrocarpa(クプレッスス マクロカルパ)ヒノキ科イトスギ属とされています。

母親のアラスカヒノキがヒノキ属とされていたので、レイランドヒノキというのですが、このアラスカヒノキがヒノキ属なのか、イトスギ属なのか、別属なのか定かでないのです。イトスギ属であるなら、レイランドヒノキは種間雑種として理解できるのですが、違う属であるならば、それは、類いまれな属間雑種となります。

イギリスの植物生産者は、土壌の塩分濃度が高い土地でも育ち、成長が早く丈夫な造園用樹木を探していました。その中でウェールズ生まれの雑種である、レイランドヒノキを見いだし、商品生産を開始しました。レイランドヒノキは、1年で1mほどに育ち丈夫なことから、盛んに生け垣などに利用されたのでした。

レイランドヒノキの若い球果です。種鱗中央の突起物、受精後2年で成熟するライフサイクルなので、ヒノキ属ではないのだと思います。葉に、表と裏の違いもなさそうです。

レイランドヒノキの乾燥した球果は、チョコレート色で大きさは直径1.2~1.3cm、ヒノキより少し大きく、種鱗数が少なく6~8個。中央部にイトスギ属のような突起が見られます。球果の中から充実した種(タネ)がたくさん出てきました。

ヒノキ属の最後に、イトスギ属のホソイトスギと、レイランドヒノキ、ヒノキ属各種の球果を並べてみました。それぞれの球果の色と大きさの違いがよく分かると思います。球果の形状から見ると、イトスギ属とヒノキ属に大きな違いがないように思えます。研究が進んでイトスギ属とヒノキ属が同属に統合されても私は驚きません。

季節は3月中旬になりました。「世界球果図鑑」はまだ続きますが、少し季節の花の話をしたいと思います。

次回は、「世界球果図鑑」を少しお休みして「オウレン属[前編] Coptis japonicaたち」です。お楽しみに。

JADMA

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