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オウレン属[後編]バイカオウレン、ミツバオウレン

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

オウレン属[後編]バイカオウレン、ミツバオウレン

2022/03/22

冬から早春まで、明るい日差しが降り注ぐ落葉広葉樹の森に、 「春の妖精」といわれる、カタクリ、キクザキイチゲなどが咲くころ。春になってもなお、ほの暗い林床などにはオウレン属が咲いています。

オウレン属は、北半球に生息する小さな種属ですが、日本の気候風土に合い、比較的多くの種属を分布させました。この属の多くは、山地の針葉樹などの林床で見ることができます。「春の妖精」たちほどの派手さはないけれど、そのかわいらしさは、「森の妖精」といわれています。

オウレンは、漢字で黄連(huánglián)と書きます。その意は、黄色く連なった地下茎のこと。この属の根茎には、抗菌作用のあるアルカロイドのベルベリンが豊富に含まれています。中国産のシナオウレンCoptis chinensis、キクバオウレンなどのCoptis japonicaは、伝統的な中医薬、日本では漢方薬の原料にされてきました。

バイカオウレンCoptis quinquefolia(コプティス クウィンクェフォリア)キンポウゲ科オウレン属。和名は、花の形がウメの花に似ているという意味。種形容語のquinquefoliaとは5枚の葉という意味で、この植物が5枚の小葉を持つことによります。

バイカオウレンは、春に咲く花の中でもとりわけ早咲きです。通常2月から咲き始めますが、1月に咲いている株を見たことがあります。この植物は、植物学者牧野富太郎博士の愛した植物として知られ、日本の南東北から四国の山地の林床に分布し日本に固有とされています。余談ですが、牧野富太郎氏をモデルにした朝ドラが決まったと聞いています。楽しみです。

バイカオウレンは、花が咲き終わるとすぐに、子房が袋状に膨らんで果実となります。それを袋果と呼び車輪状に突出します。この袋果をよく見ると、外側の先端に穴が開いていて、種子が成熟したら風に揺れて、少しずつ種を放出する仕組みのようです。

バイカオウレンの花被をよく見てみます。キンポウゲ科にはよくあることですが、花弁と思っていた5枚の弁はがく片でした。花弁はどこかと言うと、黄色のさじ状になった蜜標で8本確認できました。雄しべ、雌しべは多数というしかありません。花を構成する各器官の数は、花によってバラバラでした。この花、セツブンソウの花構造に似ています。

バイカオウレンの種形容語のquinquefoliaは、5枚の葉という意味でした。この植物の葉は、常緑で硬く5枚の小葉を持つ複葉です。オウレン属は、葉の形状にも特徴があるのでこの葉を覚えておくと植物の鑑定に役立ちます。

東アジアに多くの種を持つオウレン属ですが、北半球の寒冷な環境に分布する、コスモポリタン種もあります。それは、オウレン属の高山植物であるミツバオウレンです。

ミツバオウレンCoptis trifolia(コプティス トリフォリア)キンポウゲ科オウレン属。この植物は、北極を取り巻くように、ユーラシア西部、東部、北米大陸の亜寒帯などに生息しています。北米のネイティブアメリカンたちは、この根茎から得られるベルベリンを、体の中の寄生虫退治に使ったとされています。

ミツバオウレン種形容語のtrifoliaは、3枚の葉という意味です。バイカオウレンの5枚の小葉に対し、この植物が持つ、3枚の小葉を確認しましょう。この植物は、日本では北海道や本州(東北~中部山岳地帯)に生息し、花の開花は6~7月です。

ミツバオウレンの英名をgoldthread(ゴールドスレッド)といいます。それは、黄色く奇妙なこん棒状の花弁を、金のより糸に見立てたものです。ミツバオウレンは、バイカオウレンに比べがく片が細くきゃしゃな感じがしますが、花被の構造はよく似ています。オウレン属は、早春の薄暗い林床、夏の登山道の脇にひっそり、そしてしっとり花を咲かせていました。

次回は「キブシ属 キブシ」です。お楽しみに。

JADMA

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