小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ニガナ属
2022/04/26
子どものころ、春になると母親と一緒に野に出て、「摘み草」をしたのを思い出します。野や土手に生えていたツクシやヨモギ、セリ、ノビルなどの春の味、ほろ苦い味。そして、田んぼのあぜ一面が、黄色い花を付けたジシバリ類で覆われていました。
イワニガナ Ixeris stolonifera(イクセリス ストロニフェラ)キク科ニガナ属。種形容語のstoloniferaは、 stolon(ストロン=ほふく枝)+fer(~を持つ)という合成語です。それは、この植物が、茎から地表に水平方向にほふく枝を出し、広がっているさまを表します。別名をジシバリ(地縛り)ともいいます。
イワニガナ、別名のジシバリは、東アジアの日当たりのよい、やや乾燥した路傍や畑などによく見られる野草です。根出葉から10cm程度花茎を立ち上げ、2cm程度の黄色い花を2~3個、1枝から咲かせます。昔はどこででも見られた植物ですが、最近はめっきり減った気がします。
オオジシバリ Ixeris debilis(イクセリス デビリス)キク科ニガナ属。種形容語のdebilisは、軟弱な、きゃしゃなという意味。英語では、debilis(デバイリス)と発音して体力がないと訳されます。サイズ感は、イワニガナより、花茎が高く、花の直径も1cm程度大きい花を付けます。
オオジシバリは、イワニガナより湿った場所を好み生育しますので、子どものころ、目に焼き付いた田んぼのあぜを覆うジシバリ類は、オオジシバリだったのだと思います。両種とも同じような分布域ながら、生育する環境が違うためすみ分けているようです。
両種とも同じようで区別が難しいと思った方は、上の写真の「葉」に着目してください。イワニガナの葉はサジ状で基部が細く、オオジシバリの葉はヘラ状になっているのが分かるはずです。それが、最も分かりやすい両者の区別点です。
ニガナIxeris dentata(イクセリス デンタータ)キク科ニガナ属。種形容語のdentataは、 dentatus(歯牙のある)を意味していて、ニガナの葉にある鋸歯を意味しています。ニガナは、日本全土のほか、東アジアから東南アジアにかけての道端や野に生え、丈は50cm程度に立ち上がる植物です。和名は、この植物の葉が苦いという意味です。
ニガナは、5月から夏にかけて散形花序を伸ばし先端に頭花を咲かせます。キク科ですから、花びらに見えるのは花弁状の一つ一つの筒状花です。ニガナは、5~7つの舌状花を持っています。その数は、イワニガナなどに比べ少なく、一重咲きの花のようにあっさりしています。
American dune grass(アメリカンデューングラス)。日本ではテンキグサ(ハマニンニク)と呼ばれるイネ科の草本は、沿岸部の砂丘に育ちます。そんな環境に育つニガナ属があります。
ハマニガナIxeris repens(イクセリス レペンス)キク科ニガナ属。これは、砂浜や小さな砂丘に育つ、ハマニガナの葉です。種形容語のrepensは、地に這う、横に這うという意味を持っています。写真のように、通常は葉を砂の上に出し、砂に埋もれて生育しています。花が咲かないと、この植物がニガナ属だとは思えません。
ハマニガナの地下部がどのようになっているのか知りたくて、少し掘ってみました。このように地下茎が砂に潜って長く連なっていることを確認し埋め戻しました。このハマニガナは、カムチャッカから、東アジア~東南アジアの沿岸部に生息しています。
さて、所変われば品変わると申します。ここは、中国山東省の畑です。中国のジシバリ類とおぼしき植物がいっぱい花を咲かせていました。
Ixeris chinensis(イクセリス シネンシス)キク科ニガナ属。この植物の和名を見つけることができませんでしたので、勝手にシナジシバリとでもいっておきましょう。中国のほぼ全土に生える普遍的な野の草です。それは、荒れ地や路傍、畑などに生息しています。
このイクセリス シネンシスには、白花の変異種があります。Ixeris chinensis subsp. strigosa(イクセリス シネンシス サブスピーシーズ ストリゴサ)キク科ニガナ属。日本では、この変異種をタカサゴソウと呼び珍品らしいのですが、これがそれにあたるのか、あまり自信がありません。
日本ではあまりお目にかかれないニガナ属の白花種は、山東省の畑や道端では、どこでも見つけることができます。ニガナ属の優性色はたぶん黄色です。白色は劣性花色だと思います。
優性の法則では、黄花×黄花は、黄花で、黄花×白花=黄花です。でも、まれに生じる白花に白花の花粉が付いて受精すると、次世代には、白花が出現します。そのことが何代も繰り返してこの花色が固定されてきたのだと思います。
この白花、なかなかきれい!見知らぬ土地に生える、見知らぬ植物を探す旅ができない現在においては、身近な植物を整理するよい機会です。足元の花を見つめるときかもしれません。
次回は「ニガナの周辺」です。お楽しみに。