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アカメガシワ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

アカメガシワ

2022/05/24

それは、北海道と北東北を除く日本全土。明るい場所なら、どこにでも生えているように見えるトウダイグサ科の樹木です。

トウダイグサ科の樹木は、温帯域ではあまり多くを見掛けません。しかし、この木は日本の至るところ、潮風にさらされる海岸線や高速道路の斜面などでも赤い新芽を開いています。

アカメガシワ Mallotus japonicus(マロトゥス ジャポニカス)トウダイグサ科アカメガシワ属。この属は世界では150種ほどが確認され、アジアとインド、オーストラリアなどの亜熱帯、熱帯域に生息しています。アカメガシワは、数少ない温帯域に生息する種です。種形容語のjaponicusは日本を表しますが、東アジア全般に原生しています。

この樹木は、林や森の薄暗い場所で見ることはありません。生育には明るい場所が必要な陽樹です。林の切れ目、林縁が主な生育地であります。

それでも、樹木が生えにくい、道路際、線路際、コンクリートの裂け目などにもこの植物は進出するタフな性質を持ちます。

ここは過剰なカルシウムイオンが、植物の生育を妨げる石灰岩地帯です。アルカリ性土壌のストレスでしょう。この植物の新芽はさらに赤くなっていました。まるでポインセチアのような真っ赤な色をしています。

この植物最大の特徴は、新芽が赤いことです。それが、和名の元になります。里山や開拓された二次林や、人工かく乱地の明るい場所に生息するため、人との縁が深く、成熟した葉にご飯を盛って利用されたなどの経緯があります。ゴサイバ(御菜葉)や、サイモリ(菜盛)などと呼ばれることもあります。カシワ(檞、柏)の葉と同じ使い方をする故に、アカメガシワと名前が付いたのでしょう。アリがたくさんいることに注目してください。

アカメガシワの赤い芽の色は、星状に付着する毛の色です。その証拠に指でこすると、それが剥がれます。葉が大きくなると毛の密度が下がり脱落することで、緑色の葉色に変わります。葉の付け根や周囲に緑の腺があります。この腺は何でしょうか?

アカメガシワを観察していると、アリがウロウロしていることに気が付きます。よく見ると腺から蜜が出ていて、アリがなめているのです。アリは餌場をテリトリーとして守る性質があります。結果的にアカメガシワは、アリに蜜を提供して、自らをむしばむ害虫を排除してもらっているのです。

初夏になると、アカメガシワは奇妙な花を咲かせます。この植物は雌雄異株。オスとメスでは違う花が咲きます。手前が雌株で奥が雄株です。

雄株は黄色い花房。雄しべが、丸く展開しています。雌株の花房は褐色や赤色。雌しべの先端が鳥のくちばしのように尖り、3裂しています。

夏になると雌株には、鳥のひなが餌をせがむようなおかしな姿をした若い果実ができます。

秋になりました。アカメガシワの果実が熟し、中から黒い種子が顔を出します。その種子は油脂を多く含んでいて、鳥たちが好んで食べている様子。アカメガシワは、「どうぞたくさんお食べなさい」とでもいうように、種をうまい具合に露出するのでした。

暖かい日本の全土に広く原生し、厚かましいほどどこでも顔を出すアカメガシワ。繁栄には繁栄の理由がありました。アリをガードマンにして、次世代を鳥たちに運ばせます。寒い冬は、葉を落とし、寝て暮らす(寝技)も身につけました。それは見事な処世術。アカメガシワは、世渡り上手な知恵者なのでした。

次回は「キンギョソウ‘ソネット’」です。お楽しみに。

JADMA

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