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カタバミ属カタバミ[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

カタバミ属カタバミ[前編]

2022/06/28

日本には、およそ1億2500万人の人が住んでいます。今回の植物ときたら、人の住まい近辺に好んですみ、その総株数は人の数を大きく上回るに違いありません。カタバミは、園芸用のプランターの中でも、世代交代を繰り返しどこにでも顔を出します。カタバミは、かわいい小さな草なのであまり気にしなければよいのですが、これを退治しようとするとその手強さは相当なもの。困難な仕事になります。

カタバミOxalis corniculata(オキザリス コルニクラータ)カタバミ科カタバミ属。種形容語のcorniculataは、小憎らしいという意味ではなく「小さな角」の生えたという意味です。この植物は、暖かい季節に5枚の黄色い花弁の花を咲かせ、開花後に「小さな角」のような果実を付けます。

Oxalisの属名は、oxy(オキシー)=酸が語源です。中国語では、醋浆草cù jiāng cǎoといいます。カタバミの葉をかじると酸っぱいので、酢のような液体を持った草ということです。その酸っぱさの正体はシュウ酸です。この酸を持つカタバミの葉で、青銅や真ちゅうを磨くとさびが落ちます。写真は、古い10円玉をカタバミの葉で磨いた物です。

カタバミは昼間、強い光が当たる場所で葉を真ん中で折り畳み、強光線を避けていました。その時、明るい日陰では葉が全開でした。夜には、葉を折り畳む就眠運動も観察しました。1日に何度も、葉が食べられたように半分に欠ける葉の姿。その様子から「片食み」「片喰」=カタバミという和名になった説があります。

カタバミは、地下部に根茎を持つ多年草です。この地下茎がなかなかのくせ者で、草むしりの際に途中から折れて全て取り除くのが困難なのです。少しでもこれが残ると、しぶとく再生を繰り返します。その生命力に私たちは、文字通り「根負け(こんまけ)」してしまいます。

カタバミは、地下茎からの栄養繁殖のほかに種子繁殖も旺盛です。写真は、小さなオクラのようなカタバミの果実。大きさは2cmぐらい。この果実が熟すと、パッチンと音が出るくらいに種が勢いよく飛び出します。

その仕組みはこのようです。熟したカタバミの種は、高い弾力を持つゴムのような外種皮に包まれています。茶色の種が外種子からむける際に、種を遠くに飛ばすのです。

ハートが3つ合わさった葉の意匠がすてきなカタバミです。種子繁殖も旺盛で、根絶やしにできないほどの生命力を持つカタバミは、家族がつつがなく繁栄し、お家が断絶しないことを象徴すると考えられてきました。

昔からこのカタバミにあやかるカタバミ紋は、人気の家紋の1つです。写真は、カタバミと剣がデザインされた「剣片喰(けんかたばみ)」という紋章です。

カタバミは、持ち前の繁殖力を発揮して、東アジアのみならず世界中に生息して元々の原生地は不明、どこなのか分からないのです。このカタバミには、いくつか自然の品種が成立しています。アカカタバミOxalis corniculata forma rubrifolia(オキザリス コルニクラータ フォーム ルビフォリア)、タチカタバミOxalis corniculata form erects(オキザリス コルニクラータ エレクトス)など多彩です。

先日、草取りをしていてカタバミの群落と格闘。いざ敵に回すとその手強いこと!!完全に根茎を取り切れません。地上部をむしったけれど、しばらくするとまた生えている感じかな?カタバミとガーデナーとの戦いは、いつまでも続くのだと思います。

カタバミ属は大家族。熱帯域で多様性があり、多くの種が日本に導入されています。鑑賞価値が高いきれいな種が多いのですが、持ち前の生命力、適応力で日本に帰化してしまうことも多いのです。中編では、そんなカタバミたちと日本に原生するカタバミを紹介します。

次回は「カタバミ属カタバミいろいろ1[中編]」です。お楽しみに。

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