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カタバミ属カタバミいろいろ2[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

カタバミ属カタバミいろいろ2[後編]

2022/07/12

きゃしゃでかわいいそぶりを見せながら、その「根性」はたまげたもの。カタバミ属たちの強い生命力は地下部にある茎(塊茎=かいけい、鱗茎=りんけい)など、目に見えない地下組織が支えています。

このカタバミの地下茎は、硬い塊になっています。これを「塊茎(かいけい)」と表現してよいと思います。前年の塊の上に新しく組織ができ、串団子みたいな形です。大株になると地表から盛り上がった大きなコロニーになります。

オキザリス アルティクラータOxalis articulataカタバミ科カタバミ属。和名は、フシネカタバミもしくはイモカタバミというのですが、両者には基本種と亜種の区別があるらしいのです。よく分からないので、このカタバミの和名を学名の片仮名表記にしておこうと思います。種形容語は、articulataで「関節のある」「節目がある」という意味です。それは、節のように連なった、この植物の塊茎構造を表します。

オキザリス アルティクラータの故郷は、南米のブラジルやアルゼンチンなどです。きれいな花が春から夏に咲くので、観賞用に戦後導入されたのですが、持ち前の生命力で日本の各地において野生化しています。中編で紹介したムラサキカタバミに似た花と色合いだと思った人は、花の中心部を見比べてください。オキザリス アルティクラータの雄しべにある葯(やく)は黄色、ムラサキカタバミは白です。そして、地下部の組織を比較すれば違いは明確です。

オキザリス アルティクラータが、迷惑な雑草なのか、慈しむ草花なのか、の考え方は人によります。このカタバミを除草している人がいました。でも、強固な塊茎を全て取り除かず、刈り散らしていたのです。それでは、このカタバミの増殖を手助けしていることになりかねません。

これは「オキザリス レグネリー 紫の舞」として販売されていました。珍しい赤紫の色合いに引かれ庭植えにしたのですが、わが家において毎年芽を出し、庭のいろいろなところに出現するようになりました。この種は南米のブラジルなどが故郷ですが、園芸用に導入した世界の各地の暖地で増え続けているようです。

オキザリス トリアングラリスOxalis triangularisカタバミ科カタバミ属。前述のオキザリス レグネリーという名称は、現在シノニムになりました。種形容語のtriangularisは、三角の葉を表します。オキザリス トリアングラリスの基本形は緑の葉を持つ種であり、この紫色は亜種ssp. Papilionacea(サブスピーシーズ パピリオナセア)とされています。

オキザリス トリアングラリスを掘ったら、こんなにたくさんの球根が出てきました。小さな球根の1つ2つが、これほどに増えます。このカタバミも同じように、移入された地においてどんどん増えてしまうのでした。

フヨウカタバミは、Oxalis purpurea(オキザリス プルプレア)カタバミ科カタバミ属です。種形容語のpurpureaは、赤紫色を表します。このカタバミは数あるオキザリスの中で、とりわけ葉と花のバランスが整い、観賞価値の高いカタバミです。古くはOxalis variabilis(オキザリス バリアビリス)と呼ばれてきました。

フヨウカタバミは、このような地下構造を持っていました。それは縦に伸びた地下茎の節の先に、チューリップによく似た小さな鱗茎が付いていました。これでは、株を引き抜いたら小さな球根が地下茎から離れて、地中に残ってしまうでしょう。

フヨウカタバミは、白花、桃花、銅葉を持つ品種など、花色も豊富です。元々は、南アフリカ等のアフリカ南部の原生ですが、栽培された地域でやはり逃げ出しています。

オオキバナカタバミは、Oxalis pes-caprae(オキザリス ペスカプラエ)カタバミ科カタバミ属です。種形容語のpes-capraeは、葉の形がヤギの足に似ているという意味です。このカタバミは、根出葉(こんしゅつよう)から背の高い花系を立ち上げ、明るい黄色の花を咲かせます。

オオキバナカタバミの葉には、大きな特徴があります。緑の葉に紫色の斑点が散在するのです。南アフリカに原生するこのカタバミですが、日本の暖地の道端で繁殖している様子をよく見ます。

南アフリカには、なんときれいなカタバミが多く原生していることでしょう。ハナカタバミOxalis bowiei(オキザリス ボーウィ)カタバミ科カタバミ属。種形容語のbowieiは、南アフリカケープ地方を調査したイギリスの植物学者James Bowie(ジェームズ・ボウイ)に献名されています。大きな葉、長い花茎の先に大輪のローズ色の花を咲かせるこのカタバミ、けっこう好きです。わが家では、一度コンテナに植えたものが絶えることがなく、季節になると花を咲かせています。ハナカタバミは、そのような生命力で日本においても庭から逃げ出し野生化している様子です。

ハナカタバミの株を掘ってみました。1株に何というたくさんの鱗茎でしょう。ごそごそと出てきました。 大きな球根のほかに株元には小さな木子(きご)もありました。南米では、球根を食用にするカタバミがあります。大きな鱗茎を選び、茹でて食べてみることにしました。サクサクとした歯応えがあり、その味は美味、ユリ根と同じ味です。全てのカタバミが食用になるかどうかは、十分な研究・検証が必要ですので皆さんはまねしないでほしいですが、食材として利用が可能なように思いました。

東アジアを含め、世界中に広がった外来のカタバミ属たち。その多くが迷惑で、根絶するのが難しい雑草といわれています。しかし、彼らが悪いわけではありません。故郷から連れてきたのは、花が好きな私たちです。多種多様多彩なカタバミと上手に付き合っていきたいと思います。

次回は、「スズサイコ」です。お楽しみに。

JADMA

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