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ダイコン属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ダイコン属

2022/08/23

暑い季節の中に秋の足音が聞こえませんか?この時期に秋野菜の準備は始まっています。コロナのパンデミック以来、自分の庭やベランダで植物を育てる方が増えました。トマトやキュウリを片付けたら、秋野菜の準備です。今回の東アジア植物記は、秋野菜の主役である「ダイコン」という植物について考察してみたいと思います。

日本のダイコンの生産量は100万トン以上あります。これほど多くのダイコンを栽培して食べている国は他にないと思います。元々は外来の野菜ですが、東アジアの果てにある日本で最も多様な品種を生み、独特のダイコン文化を作り出しました。ダイコンおろし、刺身のつま、漬物、煮物、サラダにおでん、干して保存したり、葉を食べたり、薬味にも利用します。そうでした!ダイコンを踊りに使う大学もあります。

日本の伝統的な地方ダイコンの品種を数えたら100の数を上回ることでしょう。ダイコンの来歴は古く、詳細は不明ですが栽培が盛んになったのは江戸時代からといわれています。関東では「練馬」が有名。たくあんなどの漬物を作り、切り干しにして冬場の保存食としました。この「練馬沢庵大根」は、「大蔵」や「三浦」などの品種を生み出しました。「聖護院」は、後で述べる「青首宮重」の後代とされています。

農林水産省の統計によると、現在の日本におけるダイコンの出荷量は100万トン以上もあり、そのほとんどが青首ダイコンです。愛知県春日村宮重(現、清須市春日宮重町)において、青首の宮重系品種群が成立しました。それは現代に至る青首一代交配系ダイコンの元になったのです。さて、ゴボウやニンジンは、根を可食部とする野菜です。では、ダイコンはどこを食べる野菜でしょうか?多くの方は、「大“根”だから根だろう」と思うでしょう。ところがです。

ダイコンの発芽は早く、2~3日です。5~6日もすると出芽します。根から子葉までを生物学では胚軸と呼びます。茎は子葉の上に伸びます。青首ダイコンを例に上の写真に矢印で示しましたが、青首の部分は、胚軸が肥大成長したものであることが分かると思います。ダイコンの白い部分が肥大した根で、そこにはひげ根も生えています。正解は、ダイコンは胚軸と根を食べる野菜でした。実は胚軸と根の部分の味は違います。

さて、古くから栽培されている作物の原種を特定するのはかなり難しい問題です。ダイコンの元となった野生種はよく分かっていません。しかし、栽培種の他に日本の各地の海岸にはハマダイコンという外来種が自生しています。ハマダイコンRaphanus sativus var. raphanistroides(ラファヌス サティブス var. ラファニストロィデス)アブラナ科ダイコン属。属名のRaphanusはギリシャ語で「野生ダイコン」を意味し、種形容語のsativusは栽培された種であること、変種名のraphanistroidesは「野生ダイコンに似ていること」を示しています。

ハマダイコンは東アジアに自生するダイコン属です。『牧野新日本植物図鑑』では、栽培されているダイコンが野生化したと記されています。しかし、ゲノム研究の結果から栽培種とは違うことを示唆され、現在栽培されるダイコンとは系譜が違うようです。よって栽培種は、原生地から古い時代に別ルートで日本に移入したものとする説が有力です。

写真はハマダイコン

西アジアと地中海沿岸域が原生とされ、アメリカやヨーロッパに帰化しているセイヨウノダイコンRaphanus raphanistrum(ラファヌス ラファニストルム)アブラナ科ダイコン属があります。種形容語のraphanistrumは、raphani(ダイコン)+strum(こぶ状)の合成語で、莢果(きょうか)に結節状の膨らみがあることに由来するのだと思います。このセイヨウノダイコンの研究が進めば、ダイコンの野生種の解明につながるかもしれません。

多くの秋まきの草花や野菜の起源が地中海性気候の地域であるように、ダイコンもまた、その気候型地域で成立した植物であることが推測できます。アブラナ科は交雑が起きやすい植物群です。西域の植物が東に波及する過程で、さまざまな交配が繰り返されて、多くの品種が生まれました。サカタのタネで販売されているダイコンの種で「天安紅心2号」「江都青長」などは中国系ダイコンです。「ころっ娘」という品種は、韓国系ダイコンの特徴を持っています。大陸の北部や南部、あるいは半島、小さな島々を経由して複雑な経路で東の果てにある日本にダイコンがたどり着いたことでしょう。そして、世界に類を見ないほど多様な日本のダイコン群が形成されたのだと思います。

世界三大料理の一つである中華料理ですが、あまりダイコンを活用しているようには思えません。私が旅の中で見た中国のダイコンは、皮が赤いもの、中身が赤いもの、外見と中身が緑のものが多く、ほとんど生食でした。それに比べ日本のダイコン料理の豊富さとおいしさは格別なものを感じます。

さて、野菜としてのダイコンは学名で何というのでしょうか?Raphanus sativus var. hortensis(ラファヌス サティブス var. ホルテンシス)です。変種名のhortensisは「園芸種」を意味しています。9月ごろには秋冬ダイコンの種まきが始まりますよ!秋まきの種は先手必勝です。種まきが可能な時期が来たら、すぐに種をまくのがコツです。まき時期が1日遅れると、3日分生育が遅くなります。1週間遅れると21日分のロスになるのです。

9月4日にサカタのタネの「冬自慢」というダイコンの種を深いプランターにまきました。1週間もするとバッチリ芽が出ます。いつまでも芽が出ない、当たらない役者を「ダイコン役者」と言いますが、この品種はとてもよく芽が出ます。上の写真のように8カ所に4粒まき、随時、間引いていきます。その際は胚軸をハサミで切るようにしましょう。最後は1カ所1本にします。虫が多い時期です。生育初期は粒状の殺虫剤をまくのを忘れないようにします。

途中、台風の塩害に遭いましたが、立ち直り、ぐんぐんと生育していきます。11月下旬には収穫可能な大きさに育ちました。

うまくいったのがうれしくて眺めていましたが、食べてこその野菜です。12月に収穫したのが上の写真です。どうですか?プランター栽培とは思えない、どこに出しても恥ずかしくない立派なダイコンが8本収穫できました。サカタのタネの「冬自慢」は、日当たりのよい場所で適期にまけば失敗が少なく、おいしく作りやすいダイコンです。

温暖地のまき時期より一足早いですが、「冬自慢」と同じく9月4日に冬ダイコン「冬みねセブン」の種をまきました。たくさん収穫したくて、欲張って余計に種をまいた結果が上の写真です。このプランターで13本です。小さいけれどこれだけ収穫できればよいでしょう。ダイコンは手軽に作れて、結果に満足感が得られる野菜だと思います。暑い中でも種まきの準備を忘れずに。そして、種まき遅れないように。今年は楽しいダイコン栽培をしてみてはいかがでしょう。

次回は、「フォーチュンベゴニア(R)[その1]」です。お楽しみに。

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