小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
「フォーチュンベゴニア(R)」[その4]
2022/09/27
「フォーチュンベゴニア」を日本の秋から冬のガーデニングにおすすめするのは、今風にいうとevidence(エビデンス 根拠)があるからです。それは、誰かが導き出した結果からの引用ではなく、自らの仮説を実験によって確かめた結果です。その過程で「どのようにすれば、もっとこの植物を楽しむことができるのか」「どのような管理がよいのか」ということも分かりました。今回はその実験内容を詳しく説明いたします。
9月は食欲の秋、スポーツの秋、文化の秋、そして園芸の秋です。夏枯れのコンテナや庭を片付けたら「フォーチュンベゴニア」を植えて秋の風情を楽しむ時節が訪れました。秋から冬にかけて他の植物との寄せ植えで飾るのもすてきです。この時期になら、簡単に「フォーチュンベゴニア」を楽しむことができるでしょう。実は私も最初は、そのことを知らなかったのです。
いまだに暑さの残る9月22日。壁面利用して設置した鉢に10.5cmポットの一番花が咲いた苗を植え込みました。涼しくなってきたので本格的な販売が始まる前に、お客様が買った後のパフォーマンスを確認する実験として、自宅に植えてみました。
「フォーチュンベゴニア」は、植えて1週間もすると見違えるようになりました。毎日株が成長し、花も大きくなっていることが分かります。花色も鮮やかになり、花の数も増えました。植えつけ時は小さな株でしたが、植えて2週間もするとなんとも美しく咲き誇りました。
秋の長雨の後、大雨と強風警報が出る台風が関東に上陸しました。台風対策をしないといけないのですが、広げたお店をたたむ場所がなかったので、そのまま受け入れました。大雨と強風で近所の人が心配していましたが、不思議と花も株も傷みませんでした。
台風の後の壁面です。大雨に当たり大風で揺れた花はなんともなく、むしろ前より美しく咲き誇っていました。「フォーチュンベゴニア」の生育適温である20~25℃では、この植物の草勢に驚くことばかりです。
11月に入りました。長袖やセーターが欲しくなる15℃前後の気温の中、ますます「フォーチュンベゴニア」のあで姿は輝くばかりです。
12月上旬の平均気温は10℃ぐらいです。フリース素材の長袖やジャケットが欲しい気温です。このころの「フォーチュンベゴニア」は、女王様のような風格です。花持ちが特によく、一つの花が1カ月程度咲いている様子です。12月下旬にえらく冷え込んだ朝、寒さで枯死し「フォーチュンベゴニア」の実験を終了しました。
私はこの経験を、多くの花好きの方に伝えたいと強く思いました。出来過ぎな結果でしたが、嘘はありません。以下、実験結果です。
①9~12月のシーズンには、驚くほど丈夫で深刻な病害がない。
②この時期なら、台風や長雨にも影響を受けない。
③3カ月で苗の大きさは3倍に育つ。
④5℃までなら生育に問題はなく、気温の下がる「秋に植える花」として特別に優秀である。
他にも、この実験で分かったことを次でご説明します。
「フォーチュンベゴニア」は、夜に明るい場所で育てると長く咲く
12月上旬のわが家です。このときのこの花模様は、年が明けた1月5日まで続きました。前段の『‘フォーチュンベゴニア(R)’ [その3]』で開花生理について触れました。「フォーチュンベゴニア」は短日感応(たんじつかんのう)が鈍く、咲き続ける性質があります。しかし、本来は長日(ちょうじつ)開花性です。暗くなってから、明かりを付け、寝る前に消します。これを夜間中断といいます。暗期を中断し、結果的に暗い時間を短くすることで、長日を植物に感じさせる技術です。電照によって、適性気温ならいつでも開花させることができます。そしてこれは、玄関灯の下や街灯の下、夜間にほんのり明るい庭でも同じことが起きます。
フォーチュンベゴニアの施肥管理
「フォーチュンベゴニア」は適切に肥料を施すとすぐに反応して、葉色が濃くなり、花が大きくなります。花が小さいと感じたら、おそらく肥料切れだと思います。このことは、育てた経験でよく分かりました。適温なら通常の化学肥料がよく効き、花が見違えるように大きくなります。しかし、30℃以上の気温だと化学肥料を利用しても効かないようです。
「フォーチュンベゴニア」は、9月上旬ぐらいから手に入るようになると思いますが、30℃以上の高温が続くと、上の写真のように葉が黄緑色になる高温障害が出ます。このような高温期または、気温が低いときは「フォーチュンベゴニア」の光合成回路が正常に働かない状態なのでしょう。そして、この状態では化学肥料が効きません。
「フォーチュンベゴニア」にはアミノ酸液肥が有効
植物は、高温期や低温期には光合成を活発に行うことができず、糖分合成が難しいときがあります。その際は、上の写真の液肥「ネイチャーエイド」などの有機体窒素(アミノ酸)を与え、タンパク質合成を助けることができます。この肥料を施すと「フォーチュンベゴニア」の葉色が濃く、葉肉が厚くなり、すぐに健全な成長を見せます。その肥料反応の早さに驚くことでしょう。特に気温が高い時期は、希釈倍率300~500倍を週に一度、葉面と土に染み込むように散布しましょう。
そろそろ、説明を終わりにしましょう。初めて「フォーチュンベゴニア」を作った若者は、お父さんの後を継いで立派な花生産農家の社長さんになりました。今では東アジアで一番の「フォーチュンベゴニア」生産者です。もしかすると世界で一番かも知れません。作るのが難しい「フォーチュンベゴニア」ですが、彼の努力の成果が今年もきれいな花を咲かせてくれています。
実は、まだまだこの植物についてお知らせしたいことがたくさんあります。しかし、もうおなかいっぱいかもしれませんね。
次回は、「東アジア的ベゴニア属」と題し、この地域に原生する野生ベゴニアのお話です。お楽しみに。