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ハゲイトウ[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ハゲイトウ[後編]

2022/10/18

ハゲイトウのことを頭文字の2文字に省略する方がいます。それは、やめてください。私みたいに傷つく人はいます。さて、ハゲイトウAmaranthus tricolorヒユ科ヒユ属は、熱帯アジアが故郷でした。そこでは、ハゲイトウの亜種であるヒユナAmaranthus tricolor spp.mangostanusヒユ科ヒユ属を野菜としてよく食べます。また、海外の文献ではハゲイトウをedible(エディブル=食用)だとする記述を散見しますので検証してみることにしました。決して推奨しているわけではありません。日本ではハゲイトウを通常は食べないでしょうから、私の実験とだけ申し上げておきます。

色合いが派手でスペクタルな植物であるハゲイトウ。これを、ただの観賞用としてだけでなく、他に利用できないでしょうか?

中国河南省、鄭州(ていしゅう)市の市場です。その地域でどのような食文化があるのか、こうした場所を見るのが一番分かります。市場巡りは、旅の楽しさの一つ。野菜の種類は日本より多いです。日本では食べない部位ですが、ハヤトウリのつるやカボチャの花も売っています。そういった見たことのない野菜が売られていますが、鮮度はあまり褒められたものではありません。

そこで目にしたのは、日本ではあまり見かけないヒユナで、中国語で「シィェンツァィ(莧菜)」といいます。これは「バイアム」という名でサカタのタネでも種を販売したことがありましたが、あまり売れませんでした。冒頭でも紹介しましたが、この植物の学名はAmaranthus tricolor spp.mangostanusといい、spp.mangostanusは亜種という意味です。

こちらは雲南省の昆明(こんめい)市にある市場で見つけたヒユナです。中国において、夏ならばどこの市場でもおいてありますが、よく食べるのは中国南部やインドネシア、東南アジア地域です。この野菜を料理して出してもらいました。

油で炒めて、ニンニクと塩で味を整えたシンプルなヒユナの炒めものです。白いお皿に赤い色素の汁が染み出ているので、少々ぎょっとしながら普通に食べました。ハゲイトウの食用種がヒユナです。ヒユナが野菜なら、ハゲイトウも野菜として利用できるかもしれません。

ハゲイトウの品種の紹介です。左上の写真の「イルミネーション」は、幅広の銅葉(どうば)色の葉が、マジェンタカラーに色づき、頂点が黄色に色抜けする配色。右上の写真の「イエロースプレンダー」は、細長い緑の葉が、黄色く色づくお洒落な色合いです。

左上の写真の「トリカラーパーフェクタ」は、ハゲイトウを代表する伝統的な品種です。緑葉と黄色、赤色、見事な三色の色分けです。右上の写真の「アーリースプレンダー」は、赤い色素が他の品種と比べて最も豊富。元々は葉の発色が遅かったのですが、早く色づく系統を交配してできた品種です。以上の4品種を1袋にまとめた「葉げいとう 混合」をサカタのタネの絵袋で販売しているので手に入りやすいと思います。

まず、色鮮やかな「トリカラーパーフェクタ」と「イルミネーション」の料理から実験開始です。この2品種を中華鍋に入れ、油で炒め、ニンニクと塩で味付けしてみました。

できた料理がこれです。ハゲイトウは、夏の強烈な太陽光を浴びて色づきます。その色素は、葉に発生する活性酸素を除去する力があるはずです。その色素が体に悪いわけがないと自らに言い聞かせ、恐る恐る口の中に入れましたが、普通に食べられます。完食後、気分が悪くなりませんし、いまだにちゃんと息をしています。

次は「イエロースプレンダー」です。きれいな黄色なので、これを食べることに特に抵抗がありません。今回は、品種を混ぜずにこの品種だけを料理しました。

葉色は緑と黄色のバイカラー。ハゲイトウの栽培に農薬は使っていないので軽く水洗いをして、ざく切りにし、先ほどと同様にフライパンに入れて炒めるだけ。なんだかタマゴと青菜の炒めもののよう。このイエロースプレンダーは、他の品種と食感と味が違います。例えるならば水菜のサクサク感、味もミズナです。何の抵抗もありませんし、お腹が痛くなることもありませんでした。

この、色素豊富な「アーリースプレンダー」は、いかがしてやろう。考えた末に、カクテルにして飲んでみることにしました。

1株分の葉を水洗いをして、煮立ったお湯に入れ、5分で引き上げます。

抽出液は少し青臭いかな?砂糖とクエン酸で味を調え、ろ過してペットボトルに保存しました。この鮮やかな赤い色素の抽出液をベースに適量の焼酎を入れ、ロマンチックなハゲイトウのカクテルを作りました。独りで飲むのはもったいない、大切な人と一緒に飲むのがおすすめな雰囲気抜群のお酒です。一杯、二杯、三杯と少々飲み過ぎても、次の日に心臓が止まることはありませんでした。

植物の多くは、自らを守るために、さまざまな病虫害に対する物質を合成し、薬理効果や毒を持つものが多いものです。その植物を食用にできるのか、できないのか、科学に基づいた充分な検証が必要です。今回のハゲイトウ野菜化実験は、一つの事例に過ぎないでしょう。でも、あのきれいな色をした観葉植物が、前より好きになった気がします。

「野菜」として販売しているもの以外の植物は、観賞を目的としているものです。それらの商品は、有毒もしくは健康上、害を及ぼす場合がありますので、取り扱いにご注意の上、絶対に食べないでください。

次回は「アジアンハーブ カレーツリーとモリンガ」です。お楽しみに。

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