小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
アジアンハーブ カレーツリーとモリンガ
2022/10/25
世の中、草花や緑のことでお困りの方がたくさんいらっしゃいます。私は、サカタのタネ ガーデンセンター横浜他でグリーンアドバイザーもしており、さまざまな質問を受けます。多くは、園芸の常道、定石のお話しで理解をいただけるのですが、中には園芸達人のプロフェッショナルな問いや、とてもマニアックな事例もあります。困った相談も度々。「庭の木が枯れちゃったのはどうして?」「ピンクの花あります?去年ここで買ったの。シュッとしているやつ」。それぞれ、名前は分からないそうです。グリーンアドバイザーは、植物のことなら何でも知っているとお客様は思っています。でもね!決して何でも知っている訳ではないのです。
「このカレーリーフというハーブどんな味がするのですか?」と聞かれ、一瞬固まった私!もう自分で育てて食べるしか解決方法はありません。このハーブ、インドのお客様がよく買っていきます。どのような植物で、どんな味がするのでしょうか?
オオバゲッキツMurraya koenigii(ムルレーヤ コエニギイ)ミカン科ゲッキツ属。別名 南洋山椒(なんようさんしょう)。インド亜大陸に原生。英語名はcurry tree。カレーリーフは、カレーツリーの葉の意味です。属名のMurrayaは、スウェーデンのドイツ系医師Johann Anders Murray(ヨハン・アンドレアス・マレー、1740~1791)にちなんだ名です。彼は植物分類学の父と形容されるCarolus Linnaeus(カール・リンネ)の生徒であり、植物学者、薬理学者でした。
オオバゲッキツの種形容語のkoenigiiとは、インドの伝統医学アーユルヴェーダで使われる植物を調査記述した、バルトドイツ人のJohann Gerhard König(ヨハン・ゲルハルト・ケーニヒ、1728~1785)にちなんでいます。彼は、同じようにリンネの門下生。koenigiiという名は、リンネによってインドで没した弟子に献名されたものです。死因は赤痢でした。
この植物は、常緑低木で高さ4m程度。葉は羽状複葉(うじょうふくよう)という構造をしていて、多くの小葉を持ちます。この小葉をカレーリーフとしてハーブに利用するわけです。
オオバゲッキツは、6~7月に小さな花を咲かせます。受粉に成功すると、すぐに果実は膨らんできます。熟すとオリーブ大の黒い果実ができました。それを食べてみましたが、私の口には合わないものでした。アジアのトロピカルな樹木の割に耐寒性があり、横浜では外で越冬します。
肝心な葉の味はどうでしょうか?カレーリーフというのだから、月並みにカレーの上に生の葉を散らして味見です。んー、これはカレーに深みが増します。嫌ではない味。
カレーの濃い味に紛れることがないように、カレーリーフをたくさん口の中に入れます。それは微妙な味ですが、評価できるハーブだと思います。表現すると「ゴマと山椒と青臭い味が不思議にマッチした味!」です。
今度は、フィリピンのお客様が来て「モリンガありますか?」。えー!モ、モリンガ。なんだそれ!「どうやって使うのですか」と聞いたら、野菜として料理に使ったり、葉をお茶にしたりするとのこと。どのような味なのだろう?これまた、育てて味を確かめるしかありません。
3号ポットを8号鉢に移し替え、よく日の当たる場所で育てます。とにかくすくすくと育ちます。さすがインドで生まれ育った植物です。暑さに負けず、1カ月で急速に大きくなります。
さらに1カ月ほどで10号鉢に植え替えです。9月下旬には私の背を超えるほど大きくなりました。モリンガは、梅雨明け後の高温乾燥がお好みの様子。この植物、太くなる幹や根に水を蓄えるようになっているみたいです。
ワサビノキMoringa oleifera(モリンガ オレイフェラ)ワサビノキ科ワサビノキ属。北インドなどに原生。属名のMoringaは、南インドの言葉で果実の形状を表し、種形容語のoleiferaは、種が油を有する故に付けられています。和名のワサビノキは根が辛いということで付けられていますが、味は確認していません。カレープラントが、横浜の屋上で冬を越えたので、もしやと思い、室内に入れず外置きのままにしました。結果は、枯死です。強い太陽の光と高温を好む反面、耐寒性はまったくありません。
モリンガの葉は、2~3回分岐する羽状の複葉です。小葉の数は不規則でした。頂芽優勢(ちょうがゆうせい)が強く、ほとんど分枝しないので、摘芯をして枝数を増やせばよかったと思いました。この葉を葉柄から収穫して、室内で乾燥。手でもむと、このようになりました。
乾燥したモリンガの葉をお茶にしてみました。味は香ばしい枯れ草の味と香り、かすかな辛みも感じられます。エスニックなテイストですが、普通に飲めます。モリンガは夏の猛暑、乾燥を苦にしませんでした。お茶として、野菜として、日本でも充分に楽しめ利用できるハーブだと思います。
次回は「マツバラン属」です。お楽しみに。