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ガーベラ属とセンボンヤリ属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ガーベラ属とセンボンヤリ属

2022/11/22

ガーデンセンターや花屋さんの店先に売られているガーベラの和名を「アフリカセンボンヤリ」や「オオセンボンヤリ」というのをご存じでしょうか?園芸種のガーベラをなぜ「○○センボンヤリ」というのでしょうか。ガーベラとセンボンヤリについて考察します。私たちが野生種のガーベラに出会う機会はそう多くありません。私たちは、アフリカセンボンヤリGerbera jamesonii(ガーベラ ジェメソニー)や、それらの交配種のことを通称で「ガーベラ」と呼んでいます。

野生のガーベラ属は、主に南アフリカに生息していますが、東アジアにも少数ですが、原生しています。雲南省昆明(こんめい)市の林を歩いていたときでした。ガーベラ デラバイを見つけました。私の鑑定が確かなら、これは東アジアのガーベラです。植物標本の資料しか見つからなかったので自信はありませんが、分布範囲と生息標高などが適合するので、ガーベラ デラバイとしておきます。

ガーベラ デラバイGarbera delavayiキク科ガーベラ属。属名のGarberaは、オランダの植物学者Jan Frederik Gronvius(ヤン・フレデリック・グロノヴィウス)が、ロシア軍に従軍している中、若くして命を落としたドイツ人医師であり植物学者のTraugott Gerber(トラウゴット・ガーバー)に献名した名前です。このガーベラ デラバイは、丈は15~20cmと日本のセンボンヤリに比べると大柄でした。花冠1〜1.5cmで夏に開花するので、日本のセンボンヤリと比較すると花期がかなり遅いのです。

ガーベラ デラバイの種形容語のdelavayiは、雲南の植物をヨーロッパに紹介したフランス人宣教師の名です。このガーベラ デラバイは、四川省や雲南省、ベトナム北部の1,800~3,200mの山の斜面にある林の縁などに原生しています。

さて、東アジアのガーベラ属を紹介しましたので、ここからはセンボンヤリの春型開花株を見てほしいと思います。センボンヤリLeibnitzia anandria(ライプニッツィア アナンドリア)キク科センボンヤリ属。その姿は、小さなガーベラです。このセンボンヤリという植物と、ガーベラは同属と考えられていました。

センボンヤリの学名シノニムは、Gerbera anandria(ガーベラ アナンドリア)です。 シノニムとは、生物の命名法において同一とみなされる分類群に名付けられることです。センボンヤリ属は、春に通常の花を開花させる他に、秋に閉鎖花を咲かせる二季開花性(=二季咲き)という特殊性を持ちます。春型は、葉を根出のロゼット状に展開して、10cmほどの花茎を立ち上げ、舌状花と管状花を持つ白い頭花を頂生させます。花冠の大きさは1~1.5cm、丈も花も小型です。

属名のLeibnitziaは、ドイツの自然科学者Gottfried Wilhelm Leibnitz(ゴットフリート・ウィルヘルム・ライプニッツ)にちなみます。このセンボンヤリは別名をモモイロタンポポともいうのですが、舌状花の裏面が紫色を帯びる個体があることによるのだと思います。日本全土に広く原生していて、地域や個体で差異が多いように思います。

岩手県三陸にある海岸林、黒松の疎林にセンボンヤリの群落がありました。春型の花を咲かせている様子です。なんともかわいらしいセンボンヤリたちです。

センボンヤリの開花は、早春です。地中からロゼット状の葉を展開し、その中心から花茎を立てて花を咲かせます。それでは、なぜ小さなガーベラに似た花を咲かせる植物をセンボンヤリというのでしょうか?

センボンヤリは春の花とは違う花を、秋に咲かせるのです。それが、この閉鎖花です。閉じたまま種を付けるのです。種形容語のanandriaは、この植物の秋型の花の様子を表します。意味は「雄しべがない、閉鎖花」です。

センボンヤリが群生しているところでは、30~50cmに伸びた細長い閉鎖花が立ち上がります。センボンヤリは漢字にすると「千本槍」です。日本の戦国時代、1,000人の兵隊が3,000人の敵を敗走させたという「1000槍兵法」の故事からの命名なのでしょう。

センボンヤリの閉鎖花は、長さ1cmほどの冠毛(かんもう)を作ります。この褐色をした綿毛はタンポポのように種を遠くへ飛ばします。秋の「閉鎖花」に対し、春の花は「解放花」と呼ばれます。それは他株に花粉を提供し、他株の花粉を受け入れて「遺伝的な多様性をもつ子孫を残す」被子植物として本来的な繁殖の姿です。それでは、閉鎖花の役割は何なのでしょうか?

閉鎖花の役割は、保険だと思います。他者の花粉を受け入れて受精するには、幸運な偶然が必要なのです。それは、花が咲いても必ずしも他株の花粉を持った虫たちが訪れるとは限らないからです。自らの内部で受精を済ませ、自分と全く同じコピーを作る手段です。遺伝的な多様性に期待はできないのですが、確実に命をつなげます。センボンヤリが、東アジアに広く生息地をもち繁栄しているのは、巧みな繁殖方法を身に付けているからなのでした。

次回は「モクセイ属[前編] 桂花」です。お楽しみに。

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