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モクセイ属[前編] 桂花(けいか)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

モクセイ属[前編] 桂花(けいか)

2022/12/06

モクセイは、その年に伸びた枝が夏に花芽分化をして、秋に花を咲かせます。花芽を付ける時期に通常より高い温度になると、モクセイの開花生理に影響を与えるため、秋のうちに2度目の花を咲かせることがよくあります。今思い出しても、今年の夏は暑かったです。今年はこの植物の香りを、再び楽しまれた方も多かったに違いありません。

モクセイ属は、世界に約30種あり、ヒマラヤから東アジアを中心に分布します。それは常緑の低木、もしくは高木です。葉に葉柄があり、硬い皮質で対生に葉を付けます。そして、雌雄異株(しゆういしゅ)で昆虫が花粉を運んで受粉する虫媒花(ちゅうばいか)のため、秋に香りのよい花を咲かせるのです。

雲南省昆明(こんめい)市の街角で、たわわに実ったモクセイの果実を見つけました。この地域は、モクセイ属の宝庫です。この種が、何なのか分かっていません。しかし、モクセイ属の果実は、みんなこのように青黒く、中には硬い種子(核果)が一つだけ入っています。周りは、ゼリー状の果肉が付いていて、これを鳥が丸のみしてふんと一緒に核果が排出され分布域を広げるようです。

モクセイを漢字で書くと「木犀」です。「犀」は、あのシロサイやクロサイなどの奇蹄(きてい)目サイ科の動物の「サイ」です。木犀の漢字は、その属の幹にある皮目(ヒモク)が、「サイ」の肌に似ていることからの命名に違いありません。木犀という漢字がいつ作られたのか、定かではありませんが、遠い昔の中国において、はるか南方のインドやジャワなどに生息するサイが知見にあり、植物名に取り入れられたのは驚きです。

現在の中国において、モクセイの漢字は「桂(guì)」という漢字が使われます。日本では、桂と書いてカツラという樹木を表しますが、中国では桂という漢字はモクセイに使われます。

上の写真は、十六夜(いざよい)の月を撮影したものです。月の写真撮影は、結構難しいです。日本では、月にウサギが居るという伝承があります。世界各国には、独特の見え方があるらしく、中国では「秋の月が黄色く見えるのは、キンモクセイが月で咲いているから」といいます。十五夜や十六夜のころ、月を見ているとほのかにキンモクセイの香りが漂う風情はすてきです。

モクセイOsmanthus fragrans(オスマンサス フラグランス)モクセイ科モクセイ属。属名のOsmanthusは、香りのある花を意味していて、種形容語のfragransはfragro=芳香を持つという、同じ意味の反復です。種としてのモクセイは、ヒマラヤ付近から中国南部を経て、日本の九州南部までに生息する分布域の広い植物です。

モクセイは、花の白いギンモクセイOsmanthus fragransがモクセイの基本種とされ、キンモクセイOsmanthus fragrans var. aurantiacus(オスマンサス フラグランス バラエティー オーランティアカス)やウスギモクセイOsmanthus fragrans var. thunbergii(オスマンサス フラグランス バラエティー ツンベルギー)は、その変種という扱いです。モクセイの本場である中国では、ギンモクセイが「銀桂」、キンモクセイが「丹桂」、ウスギモクセイが「金桂」といわれています。

秋に咲くモクセイですが、どこでも例外はつきものです。私は、モクセイの花を雲南省デチェン・チベット族自治州の街角で、まさかの7月3日に見たことがあります。それは四季桂Osmanthus fragrans var. semperflorens。変種名のvar. semperflorensは、四季に花を咲かせるという意味です。

上の写真は、国指定の天然記念物「三嶋大社のキンモクセイ」です。推定樹齢は1200年以上といわれ、樹高15mです。キンモクセイとしての登録ですが、実際はウスギモクセイの巨木です。このモクセイも、今年のキンモクセイのように2度咲くことが知られています。

次回、東アジア植物記は「モクセイ属[後編] ヒイラギなど」を予定しています。

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