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モクセイ属[後編] ヒイラギなど

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

モクセイ属[後編] ヒイラギなど

2022/12/13

東アジアのモクセイ属の分布を俯瞰(ふかん)的に見ると、ヒマラヤの南部から大陸東岸を帯状に北上するアジアモンスーンの通り道にあります。それは、照葉樹林帯と生息域が重なります。日本の照葉樹林もまた、モクセイ属のすみかです。

シマモクセイOsmanthus insularis(オスマンサス インスラリス)モクセイ科モクセイ属。種形容語のinsularisは「島に生じる」という意味です。シマモクセイは台湾、南西諸島、九州西岸の島々、朝鮮半島の島、福井県の島、四国、伊豆諸島、小笠原などの島にある海浜林に生息する常緑の高木です。種子の散布が黒潮などの潮流で行われるのか、海鳥によって散布されるかと推察されるような生息範囲です。シマモクセイは材が硬く「ナタオレノキ」という別名があります。

オオモクセイOsmanthus rigidus(オスマンサス リギダス)モクセイ科モクセイ属。この種は、日本のトカラ列島に固有の稀少木。種形容語のrigidusとは「硬い、粗い」という意味があります。開花期は、10~11月。葉腋(ようえき)にギンモクセイみたいな白い花を咲かせましたが、香りが感じられませんでした。樹高15mにも成る大柄のモクセイ属で、葉も大きく15cmほどあります。

日本産モクセイ属の中で、私たちに一番なじみがあり、よく目にするのはヒイラギでしょう。ヒイラギの和名は、葉の鋭い鋸歯(きょし=のこぎりの歯のような形状)に触れると、ひりひり痛むこと=「疼ぐ(ひいらぐ)」からの命名とされています。このヒイラギ、誰でも触って痛い思いをしたことがあると思います。

ヒイラギOsmanthus heterophyllus(オスマンサス ヘテロフィラス)モクセイ科モクセイ属。ヒイラギは、照葉樹林では普通の常緑低木だと思います。いつも身近に在在する痛い木です。日本の照葉樹林は、福島、宮城南部の沿岸部まで広がっています。ヒイラギの自然分布は北限地もその辺り。なお、植栽されたヒイラギの北限は盛岡市と記録されています。暖地を好むモクセイ属の中で最も北に分布を広げた種です。そして、分布南限地は台湾です。

ヒイラギの学名は、Osmanthus heterophyllus。種形容語のheterophyllusのheteroとは、「異なること」、Phyllusは「葉」という意味です。ヒイラギの若木や若枝、下に生える葉は、上の写真に写る右の葉のように鋭いとげを付けますが、老木や老枝は左の葉のように鋸歯のない、丸い葉を付けます。ヒイラギのとげは、草食動物に対する自衛手段と考えられています。小さな苗の内に食べ尽くされれば深刻な影響を受けるので、幼い木の葉はとげを出します。大きくなって枝を上に伸ばせば、食害を受けません。そうした場合は、無駄なとげのコストを省略して丸い葉を付けるのです。

ヒイラギは、対生する葉の葉腋に香りのよい、白い虫媒花を咲かせます。この時期、寒がりのミツバチたちに変わり、花粉を媒介するのはアブたちです。ヒイラギには、雄花を咲かせる「雄株」と両性花を咲かせる「両生株」があります。ヒイラギの花びらは4枚。雄しべが2本に雌しべ1本が基本ですが、上の写真、左側の雄花は、雌しべが退化して、その痕跡だけを残しています。右側の写真の両性花では雄しべと雌しべが確認できます。

ヒイラギは長寿の低木、各地に古木があります。私は、群馬県中之条町で見事なヒイラギの「巨木」を見ました。周りの木々が紅葉する中に、凜(りん)とたたずむヒイラギ。その古木は樹高8.8mの群馬県指定天然記念物「駒岩(こまいわ)のヒイラギ」と呼ばれています。

低木とされるヒイラギですが、10mほどに育つ場合もあります。このヒイラギは、目通り(目の高さに位置する木の幹の太さ)が2.1mの見事な幹周(かんしゅう)です。樹皮は灰色、縦に割れ目ができています。群馬県指定天然記念物とされるヒイラギ、樹齢は不明。四万温泉に向かう途中の道すがらにあります。

きへん(木)に「冬」と書いて「柊」です。ヒイラギは初冬に開花期を迎えます。葉腋に小花をたくさん咲かせ、モクセイらしいよい香りを放ちます。このヒイラギ、冬に花を咲かせる他に、ある行事に使用されます。

それは、節分に飾る「柊鰯(ひいらぎいわし)」です。ヒイラギは、身近な林や神社の境内に普通にありました。そんな一枝を切り取り、母親はイワシの頭を枝に刺して柱に飾りました。「柊鰯をまつると、悪い鬼が入ってこないの」と言っていました。ヒイラギは、鋭いとげで子どもや家族を災厄や病気から守護する役割もします。

「鰯の頭も信心から」といいます。迷信やつまらないことであっても、家内安全を思う心情の表れに、この木が利用されています。私が、「柊鰯」を飾っていたら、飾り方が違うというのです。枝はイワシの目に通すそうです。地方や家によって鬼門に挿す「柊鰯」のバリエーションはいろいろあるみたいです。

モクセイ属の最後にヒイラギモクセイを紹介します。ヒイラギモクセイOsmanthus×fortunei(オスマンサス×フォーチュネイ)。種形容語のfortuneiは、イギリス人のプラントハンターRobert Fortune(ロバート・フォーチュン)にちなみます。学名の×は雑種であることを表していて、この植物はヒイラギとモクセイの雑種であるとされています。

ヒイラギモクセイは、幅広の葉を持ち、ヒイラギのようにとげ状の鋭い鋸歯を持ちます。花は雌しべが機能していない雄花で実を付けることはありません。この、ヒイラギとモクセイの交雑種が、どこでどのように生じたかはよく分かっていません。ヒイラギモクセイと前述のヒイラギは葉の組織が強固です。葉を重曹と煮て葉脈標本を作るには、この2種が最も適した植物だということを付記してモクセイ属[後編]を終わりにします。

次回は「アブラナ属カブ」です。お楽しみに。

JADMA

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