小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
アブラナ属カブ
2022/12/20
秋に種をまいて、年内または冬から春にかけて収穫する野菜の多くは、地中海沿岸が主な故郷です。その中でも、私たちの生活に密接に関わっている野菜の一つがアブラナ属Brassica(ブラシカ)属だと思います。今回は、アブラナ属の中で最もアブラナ属らしいアブラナBrassica rapa(ブラシカ ラパ)の変種である、カブについての植物記です。
カブ、コマツナ、ショウガツナ、ビタミンナ、チンゲンサイ、パクチョイ、ハクサイ、サントウサイ、ベカナなど。秋に種をまき、これから旬を迎える多様な野菜たち。これらのお野菜たちは、みんなアブラナから生まれた変種です。
♪菜の花畑に入り日薄れ~♪の景色は、私の子どものころは春の田畑の風景でしたが、イネの品種改良が進み、早くから田植えをするようになったことと、海外の安い菜種油の影響で、日本の田園からは『朧月夜(おぼろづきよ)』の風景は失われました。それでも、春になると各地の河川敷などでは菜の花が咲き乱れる風景があります。
サカタのタネ ガーデンセンター横浜で「菜の花の種をください」とお客様から声をかけられます。菜の花とは何の花なのでしょう?菜の花という植物はありません。菜の花は、アブラナBrassica rapaとその仲間が咲かせる花の総称です。土手に咲いていた菜の花の根元は、カブのように膨らんでいました。カブはイタリア語で「rapa」といいます。発音はラーパです。それはアブラナの学名アブラナBrassica rapaの種形容語のrapaと一緒です。
カブは学名でBrassica rapa var. rapa(ブラシカ ラパ バラエティー ラパ)アブラナ科アブラナ属です。カブは、ブラシカ属の基準種のような扱いです。カブの野生種は中央アジアから地中海沿岸地域に原生するといわれています。しかし、なぜか原生する地域ではカブの品種改良や食文化は発展せず、東アジアの果ての日本においてさまざまな品種分化や品種改良が行われ、盛んに利用されています。大カブ、中カブ、小カブ、赤カブ、それぞれの地方色豊かな品種には「日野菜カブ」「寄居カブ」などユニークなカブがたくさんあります。
小カブ「あやめ雪(R)」という品種をプランターで栽培してみました。この菜園プランターに4条のすじまきです。出芽は早く、5日でそろいます。5cm間隔になるように順次、間引きます。間引いた苗は他のプランターに移植してもよく生育しました。
種をまいて、1カ月もするとこんなに大きくなりました。菜っ葉として利用するなら、もう収穫できます。アブラナBrassica rapa類の特長は、このように生育が早いことです。
日に日にカブがカブらしくなってきました。「あやめ雪(R)」は地上に出る部分が赤紫色に色付くカラフルでかわいらしいカブです。色映えがきれいで、作るのが楽しいカブです。
今回の「小カブ あやめ雪(R)」の栽培概要です。
・種まき:9月23日、収穫:11月29日
・培養土:1プランターに野菜三昧20リットル1袋を使用
・元肥:化成肥料。プランターに40グラム
・追肥:化成肥料。3週間に一度20グラムを継続して施す
・農薬:育苗初期に殺虫剤を1回、その後は消毒なし
11月29日。種をまいて約2カ月(60日ほど)で収穫です。食べるにはちょうどよい大きさです。ピンク色のめんこいカブです。一つのプランターで、とれる、とれるぞ。いくつとれるのでしょう。
一つの菜園プランターで大小38個のカブが収穫できました。種をまいて2カ月のスピード野菜のカブ。アブラナの仲間たちはおおむね、こんな感じで早く収穫できます。作っても、食べても楽しいカブのプランター栽培です。
同様に、白い小カブも作りましたが作りやすさは同じです。特に写真の「二刀」という品種は甘く、柔らかいので美味でした。家庭でカブを育てる場合は、まき時期を選ぶことが重要です。暑いときには、まず病気がでること、害虫が多いことで苦労します。基本的に20~25℃ぐらいのときが最も育てやすいと思います。寒い場合は、不織布などで覆うとよいでしょう。
カブは、根ではなく胚軸を主に食べる野菜です。根菜類といわれていますが、いちいち目くじらを立てて否定するつもりはありません。ダイコン、カブ、ゴボウなど、私たちは根菜類が大好きです。しかし、根菜類たちの故郷である、地中海沿岸地域では、古くから天国に一番遠い地下にできる、根菜を疎む傾向があるみたいです。
ユーラシアの西を故郷とするアブラナは、交雑しやすいという特長を持っていました。東に伝わる過程で変化をしてハクサイ、サントウサイ、チンゲンサイなど、さまざまな野菜になりました。そして、カブも日本に伝わり、最も品種分化が進んだのです。「聖護院大丸かぶ」「金町小かぶ」「飛騨紅丸蕪」など地方色豊かなカブができました。品種改良も盛んで、洗練吟味されたカブを東アジアの果ての私たちが、最も享受しているのだと思います。
次回は「ツバキ属サザンカ」です。お楽しみに。