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ツバキ属サザンカ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ツバキ属サザンカ

2022/12/27

♪かきねのかきねの曲がり角♪で始まる童歌『たきび』。歌詞を聴くだけで、体が温かくなる歌です。落ち葉や家から出る燃えるゴミは、たき火で燃やして暖を取り、イモを焼いた時代。子どものころ、私の手はあかぎれでヒリヒリと痛く、女の子の手は霜焼けで赤かったように思います。今回は『たきび』で歌われるサザンカの植物記です。

サザンカCamellia sasanqua(カメリア サザンカ)ツバキ科ツバキ属。サザンカは、ヤブツバキと同じカメリア属です。カメリア属の植物たちは、ヒマラヤ山脈と熱帯収束帯と偏西風がもたらす、豊富な雨量を元に発達する照葉樹林帯に自生する植物群です。中国長江以南の暖かい地域が分布の中心ですが、日本のヤブツバキとサザンカは日本固有のカメリア属であり、その分布限界(この植物が分布する地理的な限界を示す場所)の北限種です。

サザンカはヤブツバキに比べ、野生種を見る機会はそれほど多くありません。それは、この樹種が暖地に生息し、本州の一部、九州、四国から南西諸島の照葉樹林に点在する希少木だからです。

私が初めてサザンカの野生種を見たのは、奄美大島の「金作原(きんさくばる)原生林」の中でした。半日陰よりなお暗く、イヌマキやイジュ、バリバリノキなどの下木として生えていました。サザンカの植栽場所は、半日陰地が適地であることが野生の状態を見て理解できます。上の写真の中にサザンカの花が確認できるでしょうか?

サザンカの野生種は、5枚花弁のシロバナです。半八重の花弁は7枚ほど。花径の大きさは、7cmになる大輪です。樹高は通常2m程度の低木だと思っていましたが、5mほどの大きなサザンカもありました。

こちらは、明るい尾根筋(おねすじ)に咲く野生のサザンカです。サザンカは、暖地の照葉樹林たちに交ざって生える樹種なのです。

属名のCamelliaは、イエズス会宣教師で、フィリピンの植物情報をヨーロッパにもたらしたGeorg Joseph Kamel(ゲオルク・ヨーゼフ・カメル)に献名された名です。種形容語のsasanquaは、サザンカを表す日本語の「山茶花」をCarl Peter Thunberg(カール・ペーテル・ツンベルク)が学名に置き換えたものです。

中国では、一般にツバキのことを山に生える茶の花として、山茶花shāncháhuāといいます。和名のサザンカではなくツバキ属を指す言葉です。サザンカは、梅の花のように雄しべが広がるので、茶梅cháméiといって区別します。同じ漢字でも国が違うと指す植物名が違うのです。

カメリア属の本場である中国南部には、日本のサザンカに似た種があります。トガリバサザンカCamellia cuspidata(カメリア カスピデータ)ツバキ科ツバキ属。種形容語のcuspidataは、先が尖(とが)ったという意味です。照葉、常緑の低木であり、花の大きさは3cm程度、いかに日本のサザンカが大きな花を咲かせる植物なのかが分かります。トガリバサザンカは、中国南東部の各省、熱帯モンスーンの通り道に沿って生息しています。

サザンカとヤブツバキの2種の比較

ヤブツバキとサザンカは同じような輝く艶葉(つやば)を持ち、よく似ていると思われていて、その違いについていろいろいわれているので、私なりに考察してみます。
①サザンカの野生種は、シロバナ、ヤブツバキの野生種はアカバナであること。
②野生種サザンカの雄しべは、基部でつながりがないこと。野生種ヤブツバキは、花弁の基部がつながり、雄しべが筒状に合着していること。

➂植物解剖学的には、両種の違いは明確です。サザンカの花の中心である、子房には細かい毛が密生しているのですが、ヤブツバキの子房はつるんとしていて無毛です。

④ヤブツバキの葉がツヤツヤして、無毛であることはご存じだと思います。サザンカの葉も同じように艶葉(つやば)なのですが、特に若い葉の裏面や葉柄にはクモ毛が生えているのです。

サザンカとヤブツバキの開花期の比較

これはよく知られていることですが、サザンカの開花盛期は10~12月でヤブツバキより早いです。サザンカは花びらが開帳してよく開き、咲き終わった後に花びらが別々に散ります。

サザンカとヤブツバキの咲き方と散り方の比較

開花期は品種によってまちまちではあるのですが、基本的にヤブツバキは11月から翌年2月ごろまで咲き、サザンカより遅いこと。ヤブツバキの花弁は基部でつながっているために花ビラが抱え咲きであり、花が咲き終わると花全体が落ちること。

どうでしょうか、これでサザンカとヤブツバキの違いが明確になりましたか?

さて、冒頭でサザンカは、花の美しいカメリア属で、ヤブツバキと同様の分布限界の北限種だと書きました。それは何を意味するのでしょうか?経済力があって、人口の多い世界の都市は緯度の高い場所に存在することが多いようです。熱帯や亜熱帯域に生息するカメリア属では、栽培に設備が必要になるのですが、サザンカは多くの温帯地域において、設備なしで露地栽培が可能だということです。それは、園芸植物として重要な特質なのです。

サザンカは、ヤブツバキと同様に日本の園芸家が江戸時代に品種改良を始め、素晴らしい名花を生み出しました。サザンカは、日本の国土と人々が生み出した世界的な園芸花木です。シーボルト先生は、その日本植物誌の中で、寒い冬に輝くような緑の葉を持ち、鮮やかな花を咲かせる植物としてサザンカを賛辞し紹介したのでした。

皆さん、間もなく年の瀬です。寒い時期、風邪やコロナウイルスに気を配り暖かくしてお過ごしください。今年一年『東アジア植物記』をお読みいただきありがとうございました。

また、新しい年が始まります。年を重ね新しい植物の見聞を広めることと、一日も早い新型コロナウイルス感染症の克服と戦争のない年になることを願っております。

次回は「世界球果図鑑[その32] タイワンベニヒノキとラオスヒノキ」です。お楽しみに。

JADMA

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