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世界球果図鑑[その36] 世界爺 

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その36] 世界爺 

2023/02/14

ヒノキ科は、多様で長大です。世界で最も背が高く、体積がある樹木です。世界で最も幹周りの大きな樹木もヒノキ科に属しています。今回は、その壮大さから「世界爺(セコイア、セコイヤ)」と呼ばれる、植物たちと球果を見ていきます。

No.89 セコイアデンドロン ギガンチュームSequoiadendron giganteumヒノキ科セコイアデンドロン属。私の手のひらにあるのがセコイアデンドロン ギガンチュームの球果です。米西部の森林地帯にあるこの樹種は、世界一体積が大きいと有名ですが、私はその木を直接見たことがありません。そして、その樹種は夏の高温多湿環境に適応できないため、日本での植栽事例もありません。

セコイアデンドロンの球果は、もちろんヒノキ科の中で最大です。5~6cmの大きさがあります。日本のヒノキの球果と比較してみました。乾燥したヒノキの球果の重さは0.5gでした。同様に乾燥したジャイアントセコイアの球果の重さは33g。重さにして66倍です。種子は、ヒノキに似て大きさは6mmほどの意外と小さいです。属名のSequoiadendronは、ネーティブアメリカンの博物学者Sequoia(セコイア)氏の人名とギリシャ語で「樹木」を表すdendronを合成したものです。種形容語のgiganteumは「巨大なこと・巨人」を表しています。

ジャイアントセコイアは、世界的絶滅危惧種。現生木は8万本と推定され、成木にはこのような球果が1万個も付くそうです。しかし、その球果は何年も木に付着したまま固く閉じ、山火事で多くの種子が放出される仕組みです。この球果を手に取り、眺めているだけで、この木が生きてきた悠久の歴史を思い描けます。

No.90 セコイアセンペルビレンスSequoia sempervirensヒノキ科セコイア属。和名は、セコイアメスギもしくはセンペルセコイアといいます。生息地は、北米の太平洋沿岸地域。オレゴン州南西部からカリフォルニア州の年間降水量が2,500ミリに及ぶ多雨地帯です。そして、世界で最も背の高い木として知られ、最大の高さは115mを超すヒノキ科の植物です。

種形容語のsempervirensは、常緑の葉を意味しています。3cmほどの平たい葉が、互生(ごせい・互い違いに付く)しています。葉の様子からイチイモドキという別名もあります。センペルセコイアの生育には大量の水が必要なようで、日本のスギと同じように小川が流れる深い谷や渓谷に生息するといいます。

センペルセコイアは真っすぐに育ち、厚い樹皮を持ちます。それは、フカフカでウレタンなどの難燃性断熱材のようです。巨木では、その厚みが20~30cmに及ぶというのですから驚くしかありません。カリフォルニア州の森林火災のニュースがテレビで流れますが、センペルセコイアはそれを乗り越えるそうです。この分厚い衣は、山火事から身を守る適応の一つだと考えられています。

センペルセコイアの球果です。ジャイアントセコイアを小さくしたような形で長さ2.5cm、重さ1gで特段に大きいわけではありません。この樹種も前述のジャイアントセコイアも、葉は常緑で互生しています。葉の変形である球果の鱗片(りんぺん)も軸に対し互生の構造を持ちます。

No.91 メタセコイアMetasequoia glyptostroboidesヒノキ科メタセコイア属。属名は「異なる」を意味するmeta+sequoiaの合成語です。種形容語のglyptostroboidesは『東アジア植物記 世界球果図鑑[その34]』で紹介した、No.84 スイショウ(水松)の属名であるGlyptostrobus+oidesです。oidesの意味は「似ている」でした。

セコイアデンドロン属とセコイア属、メタセコイア属のそれぞれは、ヒノキ科の中でSubfamily(同系統)のセコイア亜科にグループ化されています。つまり同じ祖先から進化したということです。しかし、メタセコイアはmetaという接頭語が表すように、北米の樹種と違い、落葉性であることなど、多くの点が異なります。

メタセコイアは日本を含め、多くの北半球地域に生息していた痕跡があります。中生代から新生代にかけて、この種は大森林を形成していたことでしょう。私も東京・八王子市でメタセコイアの化石を発見しました。各地で絶滅した原生種は、中国の湖北省と四川省などにだけ確認されています。和名は曙杉(アケボノスギ)ですが、中国では水杉(ミズスギ)といいます。

メタセコイアは、東アジアの希少木ですが、各地で園芸用に増殖されました。挿し木で増えて成長が早く、新緑や紅葉が美しいためです。日本でも珍しい樹種ではなく、よく見る庭園樹です。この大きく育つ木を家庭などに植えて、えらく大変な思いをされた人を何人か知っています。上の写真で、メタセコヤの葉が対生(たいせい・葉が向かい合って2枚生える)していることを確認してください。

上の写真は、メタセコイアの若い球果(左)と乾燥した球果(右)です。乾燥した球果の大きさと重さは、センペルセコイアとほぼ同等。メタセコイアの球果は、よく実り、秋から冬にかけて大量に落下します。北米のセコイア類の球果鱗片(りんぺん)は、軸に対し互生で螺旋(らせん)状に配置されているのを見てきました。東アジアに生息するセコイアの鱗片は、軸に対し互生の螺旋構造ではなく、十字構造の対生に付いていることが、meta(=異なること)なのでした。

ヒノキ科セコイア亜科3種の球果を並べてみました。いずれも同属の他種は絶滅し、それぞれ1属1種となりました。世界に広い分布域を持っていましたが、今では北米と東アジアについのすみかを見つけ、隠れるように生息しています。

次回は「世界球果図鑑[その37] 広葉杉と台湾杉」です。お楽しみに。

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