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世界球果図鑑[その40] ミクロビオータと南洋杉

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界球果図鑑[その40] ミクロビオータと南洋杉

2023/03/28

今までマツ科を終えてから、ヒノキ科の球果とその植物の概要を見てきました。そして、私が知見を得ているヒノキ科は、あと1属1種だけです。今回のミクロビオータ属は、和名をウスリーヒバといいます。いずれにせよあまり聞き慣れない名です。それは20世紀になってから、ロシア極東ウラジオストク近郊のシホテ・アリン山脈で発見された、ヒノキ科の植物です。

No.102 ウスリーヒバMicrobiota decussata(ミクロビオータ デクサータ)ヒノキ科ミクロビオータ属。高さ1mに満たないはい性の常緑低木です。ビャクシンのようですが、球果は小さく木質で、液果ではありません。そして、種子に翼がありません。葉が鱗片(りんぺん)状でイトスギ属のようでもあります。それは、他のヒノキ科に類するものがなく、1属1種の植物とされています。

ウスリーヒバの学名についてです。『東アジア植物記 世界球果図鑑[その34]』で紹介したコノテガシワの属名をPlatycladus(プラティクラドゥス)といいました。このコノテガシワの古い学名が、Biota属です。ウスリーヒバの属名Microbiotaは、小さなことを表すMicroと、以前コノテガシワを表していたbiotaで構成されています。

ウスリーとは、ロシア沿海州と中国東北部を分ける川である烏蘇里江(ウスリー川 Wūsūlǐ Jīang)が流れる地域のことです。この川は、ウスリーヒバの生息する山脈が源流で、アムール川に合流し、オホーツク海に注ぎます。このウスリーヒバの最大の特徴は、夏と冬で葉色が変わることです。夏は緑、冬はチョコレート色になります。この植物はカラ-リーフコニファーとして楽しめるのです。

ウスリーヒバの種形容語decussataは、十字の直角に分かれたという意味です。それは、この植物の短い葉が十字対生にかみ合わされ、細いヒモ状の鱗片(りんぺん)葉になっているからです。ウスリーヒバの根元をかき分けてみました。霜の当たらない場所は、夏の葉色の名残がある緑でした。おそらく、低温で壊れた葉緑体の代わりに、アントシアン色素が葉にたまる活性酸素を除去する仕組みなのでしょう。残念ですが、いまだに球果の確認ができていません。

この『世界球果図鑑』と銘打った、このシリーズの中でマツ科とヒノキ科は40回をもって終了します。松ぼっくり、ヒノキぼっくりと、球果らしい球果を付ける植物はほとんど終了です。しかし、球果を付ける植物は他に、ナンヨウスギ科、イヌマキ科、コウヤマキ科、イチイ科と4つの科(family)が残されています。この残りの科についても言及しておきます。

北半球には、さまざまなマツ科の植物がありました。ヒノキ科は、両半球に生息しています。ナンヨウスギ科は、南半球に生息するエキゾチックな針葉樹のグループです。世界三大美樹の一つ、三大庭園樹の一つといわれるナンヨウスギ類は、とても美しい樹種です。私は多くを知っているわけではありませんが、知見を生かしてお伝えします。

No.103 ノーフォークマツAraucaria heterophylla(アラウカリア ヘテロフィラ)ナンヨウスギ科ナンヨウスギ属。別名は、シマナンヨウスギもしくは、コバノナンヨウスギです。英語では、triangle Tree。それは、鱗片状の葉を付けた枝が三角形を広げたように展開する様子を表現しています。学名の種形容語heterophyllaは、hetero(異なった)+phylla(葉)の合成語です。その意味するところは、この植物の幼木と成木で葉(phylla)の形状が異なる(hetero)からです。

ノーフォークマツは、オーストラリア領の孤島ノーフォーク島の固有種です。幹はまっすぐ垂直に伸び、規則正しく枝が輪生します。小枝はやや斜め上に伸びて、左右対称のきれいな樹姿となります。それは、他の樹木から飛び抜けてそびえ、強い風にも耐風性を持つ高木となります。元々孤島に原生していますので、耐塩性も持ちます。また、耐寒性もそこそこあるようで、沖縄やその他の都市部において植栽されている様子を見るので、一時的に0~5度の低温度にも耐えるようです。

ノーフォークマツの樹皮は灰褐色で、葉は硬く不思議な形状をしています。幼い木の葉は、1~1.5cmの針状でスギ状葉ですが、成木になると針状の葉は、短い鱗片状葉となり、螺旋(らせん)状で密に重なり、ひものように伸び先端が上向きになります。

No.104 クックパインAraucaria columnaris(アラウカリア コルムナリス)ナンヨウスギ科ナンヨウスギ属。種形容語のcolumnarisは、円柱状を意味します。クックパインは、南太平洋ニューカレドニア諸島固有のナンヨウスギです。ノーフォークマツより、背が高く60mほどで、狭く細長い円すい状に生育します。その姿は、まるでオベリスク(古代エジプトの記念碑。一本岩で作られた柱)のようです。そして、妙なことにこの木は、南半球では北に傾き育つというのです。そして北半球に植えると南に傾くのです。

このナンヨウスギは、英語で原生地の名を取りCaledonia pine(カレドニアパイン)。もしくは、ニューカレドニアを欧米人として1774年に発見したJames Cook(ジェームズ・クック)の名を取り、Cook pine(クックパイン)とも呼ばれます。クックパインの球果を探したのですが、見つかりませんでした。ナンヨウスギ科は、基本的に雌雄異株(いしゅ)で球果はとても大きいのですが、クックパインは木質ではなく、地上や樹上で分解して種子を散らすようです。この株は雄株です。雄花が開花した痕跡がありました。

クックパインの樹皮は灰色です。表面の樹皮が薄い紙シートのように剥がれます。この樹種は、垂直な幹から一定の間隔で大きな枝を輪生させ水平に開きます。そしてさらに分枝をして小枝を展開させていました。

枝から分かれた小枝は長く、30cm以上あり、長さ5~7mmほどの三角形をした硬い葉が、らせん状に密に付きます。それはまるで、皮でできた丈夫なひもか、むちの先のようです。

ノーフォークマツを日本で見ることがあっても、クックパインを日本で見ることはまれだと思います。順調に生育し、越冬するためには最低気温10度以上が必要とされていますので、ジャカランダを露地で開花できる地域でなければ露地での植栽は難しいでしょう。

次回は「世界球果図鑑[その41]ジェラシックツリーとモンキーパズル」です。お楽しみに。

JADMA

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