小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
センニンソウ属[その2] クサボタンとオオクサボタン
2023/05/16
ハンショウヅルは、4枚のガク片を持ち、下向きに花を咲かせるツル性のクレマチスでした。日本に原生するクレマチス(センニンソウ)属の中には、ツルを伸ばさないで直立するように育つ、クサボタンの仲間があります。
植物分類学において、クレマチスのように分布域が広く多くの種(しゅ)を持つ属には「節(section)」という下位分類をもうけ、類縁種をグループ化する場合があります。「節」は「属」と「種」の間に位置します。キンポウゲ科センニンソウ属クサボタン節。このグループは、根出葉から花序を立ち上げ、低木状に育ちます。つり鐘状の花被は、濃淡のある青色。ハンショウヅルのように4枚のガク片を下向きに開き、先端が反り返ります。開花は遅く、夏から秋です。中国や日本など8種ほどが、東アジアの日当たりがよい山地に原生しています。
クサボタンClematis stans(クレマチス スタンス)キンポウゲ科センニンソウ属。種形容語のstansは、直立していることを表しています。草丈は、1mほどの大きな株で低木状に生育します。株姿は直立ですが、花茎が花被の重みで斜めに伸びるのはご愛嬌(あいきょう)です。
クサボタンの葉は、3出複葉です。細かい鋸歯(きょし)があり、浅く3裂しています。その葉姿は、ボタンの葉に似ています。
日本全土に分布域を持つクサボタンは、日当たりのよい草地が生育の適地です。降水量が多く、森林が発達するこの国においては、草原や草地は少ないので、樹木の生育が困難な石灰岩地帯でクサボタンを見かけることが多いと思います。
クサボタンは、開花後に0.3cmほどの果実を付けます。それは、果実の皮が乾燥して内部に一つの種子を包み込む、痩果(そうか)という形状です。そして、花柱が2cmほどに伸び、乾燥すると羽毛状に毛を広げます。
痩果は、秋から冬に熟します。赤玉土にとりまきすればよく芽が出ます。種子からたくさん増えそうなクサボタンですが、あまり野山で見かけないのは、クサボタンが生育できる環境が少ないからだと思います。
クサボタンは、基部が木質化しますが、冬季はほとんどの上部構造を枯らします。その上部を枯らす草状が和名の由来です。この植物を低木とするのか、宿根草とするのか微妙です。花被は、今年伸びた枝の先や葉腋(ようえき)に咲かせます。この植物は、日本の固有種とされるのですが、よく似た種が東アジアにいくつか原生しています。
オオクサボタンClematis speciosa(クレマチス スペシオーサ)キンポウゲ科センニンソウ属。種形容語のspeciosaは、美しい、見栄えがするという意味です。日本の中でも四国、大分、宮崎の石灰岩地帯という、日本の非常に限られた地域にのみ生息する固有種です。現在、放映中の朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとなった牧野富太郎先生が、四国の四万十川流域で発見して命名した種です。
クサボタンに対し、オオクサボタンはその名の通り、葉や花が大きいことが特徴です。私の観察では、クサボタンの花被は長さ1.2cm、オオクサボタンは2.5cmとおよそ2倍の大きさでした。
オオクサボタンは、ガク片の大きさだけでなく、葉もクサボタンより2倍ほど大きいのです。左がオオクサボタン、右がクサボタンです。同様に3出の複葉ですが、オオクサボタンは、切れ込みが少なく鋭角であることも特徴です。
もう一度、オオクサボタンとクサボタンをサイドバイサイド(横に並べて)で比較してみました。両種の違いは明確です。このオオクサボタンより、さらに大型のクサボタン類がトウクサボタンClematis heracleifolia(クレマチス ヘラクレイフォリア)キンポウゲ科センニンソウ属です。それは、中国北部から朝鮮半島に原生しています。クサボタン節は、これらの他にも数種が中国などに生息するとされていることから、東アジアの大陸部分で分化して日本列島に分布を広げたと考えられます。
次回は「センニンソウ属[その3] ボタンヅルとセンニンソウ」です。お楽しみに。