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センニンソウ属[その3] ボタンヅルとセンニンソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

センニンソウ属[その3] ボタンヅルとセンニンソウ

2023/05/23

ボタンのような葉を持ち、直立して育つクサボタンは、花を下向きに付けていました。今回は、同じような葉を持ち、4枚のガク片を上向きに平開し、つるを伸ばすボタンヅルとセンニンソウです。

ボタンヅルClematis apiifolia(クレマチス アッピフォリア)キンポウゲ科センニンソウ属。日当たりのよい山地に生息するつる性の落葉樹です。日本では本州、四国、九州ほか、東アジアの温暖な地域に生息しています。園芸好きな国として知られる英国の寒さには、耐えられないという報告があり、耐寒性はあまり高いとはいえません。

ボタンヅルは、ボタンヅル節(sect. Clematis)という、類縁グループの一員です。ボタンのように切れた葉は、3出または羽状の複葉で、表面には小さな毛がまばらにあります。赤ちゃんのおしゃぶりみたいな花の蕾が愛らしく、夏から秋に開花期を迎え、花被4枚は上向きに平開します。このボタンヅル節は、アフリカ大陸やユーラシア大陸に多くの種(しゅ)を分化させています。

セロリ

ボタンヅルの学名は、Clematis apiifolia。種形容語のapiifoliaは、Apium(セロリ)+folia(葉)の合成語です。このボタンヅルの学名を直訳すると「セロリ葉クレマチス」となります。ボタンヅルの葉を西洋では、セロリといい、東洋ではボタンに見立てたのです。

さて、セロリを和名でオランダミツバといいます。この野菜の来歴は古いのですが、独特の香りが日本人の感性になじまなかったようで、セロリが野菜として普及したのは近年になってからです。病虫害がほとんどないセロリは、家庭菜園に1鉢作っておくと手間がかからず重宝します。セロリの学名Apiumは、apis(ミツバチ)に由来するということです。

ボタンヅル

ボタンヅルはつるを長く伸ばし、低木などに絡み付き、2cm程度のたくさんの白いガク片を上向きに開きます。園芸用にこの種の苗販売もあり、苗が入荷するとよく売れ、人気があります。花被は両性花でミツバチとハエなどによって受粉され種子が付きます。

ボタンヅル節には、多くの近縁種があります。ボタンヅルが生息していない日本の九州から南下の南西諸島には、リュウキュウボタンヅルが原生しています。この種には、
①東南アジアからインド、ネパール、パキスタン、アフガニスタンと広域分布するClematis grataの変種とされるClematis grata var. ryukyuensis(クレマチス グラタ 変種 リュウキュウエンシス)という説
➁沖縄と台湾、フィリピンなどに生息するClematis javana(クレマチス ジャバナ)とする説
二つ記されています。

リュウキュウボタンヅルは、6~7月に沖縄など南西諸島の日当たりのよい道路際の低木に絡み付いているのをよく見ることがあります。ボタンヅルとの区別は難しいのですが、花被の色合いが黄色いこと、葉の鋸歯(きょし)が鋭角なことなどが相違点だと思いますが、痩果(そうか)の形状がボタンヅルに比べ、平たいことで区別をするとのことです。

さて次は、センニンソウ属という言葉の元になったセンニンソウです。センニンソウClematis terniflora(クレマチス テルニフローラ)キンポウゲ科センニンソウ属。種形容語のternifloraは、ternat(三つ) +florus(花)の合成語です。センニンソウは4枚のガク片ですので、学名における「三つの花」の真意を確かめるのに私は苦労しました。その学名の命名者は19世紀スイスの植物学者Augustin Pyramus de Candolle(オーギュスタン・ピラミュ・ドゥ・カンドール)です。彼は、センニンソウの花序が3回に分岐した集散花序なので、そのような名を付けたのだと思います。

センニンソウとボタンヅルは、よく似ていて非なるものです。まず、花被の違いです。センニンソウの雄しべはガク片より長くなることはありません。一方で、ボタンヅルの雄しべはガク片より長くなります。蕾にも着目してください。センニンソウの蕾は先が窄む(すぼむ)のですが、ボタンヅルは丸い蕾です。花色はセンニンソウの方が白く見えます。センニンソウの葉は、わずかな切り込みがあり、尖(とが)った羽状複葉となることもボタンヅルと異なります。ボタンヅルの膨らんだ痩果、センニンソウの平たい痩果も相違点です。

センニンソウ

センニンソウは、センニンソウ節(sect. Flammula)というグループを形成しています。学名で「節」を代表するのが、クレマチス フレムラClematis flammulaです。南ヨーロッパや北アフリカに生息するセンニンソウの近縁種で、特に香りのよい種として知られています。

センニンソウは、日本の北海道から九州、他に東アジアの温帯・亜熱帯に広く原生しています。花は夏から秋に株を覆うように一斉に開花します。とてもよい香りがするクレマチスで海外ではJapanese clematisとして知られています。

センニンソウは原生量も多く、最も普通にられるクレマチスだと思います。通常の花被の大きさは、3cm程度ですが、ずばぬけて大きな花被を見ることがあります。秋田県白神山地の道端で見つけたセンニンソウの花は5cmもあり、それは観賞価値の高いものでした。私は、植物を眺めるだけでなく、肌で触れて植物に接するのですが、皮膚の弱い方は慎重に行ってください。センニンソウ属は、致命的ではないものの毒性を持ちます。草の汁に触れるだけで、炎症を起こすかもしれないので注意しましょう。

次回はセンニンソウ属[その4]、中国のセンニンソウ属に関する知見です。お楽しみに。

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