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センニンソウ属[その4] 中国的クレマチス

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

センニンソウ属[その4] 中国的クレマチス

2023/06/06

世界中に多くの種(しゅ)を持つセンニンソウ属は、東アジアの温帯が分布中心です。その中で広大な土地を有する中国には、多くの種が生息しています。

中国において、農耕と牧畜を分ける山脈、内モンゴル自治区の陰山山脈。その北側はゴビ砂漠に接し、農耕には適しません。乾燥した山塊で高木は育たず、わずかな低木がまばらに生えます。この地域には、こんなクレマチスが生えていました。

ホソバクサボタン

ホソバクサボタンClematis hexapetala(クレマチス ヘキサペタラ)キンポウゲ科センニンソウ属。センニンソウ節ですが、つる性ではなく木立性です。種形容語のhexapetalaとは、六つの花弁を持つという意味です。中国東北部、内モンゴル、シベリアなど乾燥した山斜面や草原環境に生えるクレマチスです。

ホソバクサボタン

このクレマチスは、和名のホソバクサボタンの通り、葉が細いことが特徴の一つです。英語では、Mongolian Snowflakes(モンゴリアン スノーフレーク)といい園芸的に人気があります。上の写真は、6月下旬に撮影しました。草丈は60cm程度、葉は対生で細い羽状複葉でした。

中国中部、河南省嵩山(すうざん)。麓の小さな林には寺があり「少林寺」と呼ばれます。達磨(だるま)は、ここで面壁九年(めんぺきくねん)の末に禅宗(ぜんしゅう)の開祖となりました。この山塊は乾燥していて、植物相は貧困です。この地域は、米作には降水量が足りず麦や雑穀が作られます。

※面壁九年…壁に向かって座禅修行をすること

ニイタカハンショウヅル(クレマチス モンタナ)

崇山の斜面にはクレマチス モンタナが白い花を咲かせていました。ニイタカハンショウヅルClematis montana(クレマチス モンタナ)キンポウゲ科センニンソウ属。台湾からアフガニスタンの山岳地帯に生息しているクレマチスです。モンタナ節(sect. Montanae)に分類されます。

中国西部の最大都市、西安。近郊には、中国文化を南と北に分ける秦嶺(しんれい)山脈がそびえます。そこは、中国の緑の肺ともいわれ、緑が豊かで植物相も豊富です。

いくつかの渓谷に分け入りましたが、そこで見たセンニンソウの仲間が上の写真です。

クレマチスClematis‘SP.’キンポウゲ科センニンソウ属。センニンソウ節だということは分かります。当初は、ガク片が6枚なので私はホソバクサボタンだと決めつけましたが、葉の形状が決定的に違うので訂正します。たぶん、Clematis terniflora var. mandshuricaだと思うのですが、特定に至っていません。

中国西南部の雲南省のデチェン・チベット族自治州にあるチベット仏教寺院、松賛林寺(ソンツェリン・ゴンパ)。そこは、香格里拉(シャングリラ)の郊外標高3300mにあり、森林限界よりも上になるため空気が薄い高地です。その近くで見たクレマチスです。

クレマチス レーデリアナ

クレマチス レーデリアナClematis rehderianaキンポウゲ科センニンソウ属。それは、カンパネラ節(sect. Campanella)というグループだとされています。レーデリアナは、雲南省、青海省の西部からチベット、ネパールなど高山や亜高山斜面、小川に沿って生息する半立性のクレマチス。小さな黄色いつぼ(壺)状の花をたくさん咲かせていました。

次は、モンタナ節(sect. Montanae)とされる中国西部、貴州、四川雲南の高地に固有のクレマチスです。

クレマチス クリソコマ

クレマチス クリソコマClematis chrysocomaキンポウゲ科センニンソウ属。このクレマチスは、中国名を金毛鉄線連、英名はgold wool clematisといいます。花が6cm程度と大きく、受け咲き。しべが金色で愛らしいものです。標高3000mで私が見かけた株は60cm程度で直立し、花色、ガク片、大きさなどに多様性がありました。

中国中南部の最大都市昆明(こんめい)。標高1900mにあり「春城」といわれる、1年を通して快適な地域です。町の裏山に登ると、さまざまな植物が見られました。

クレマチス ラヌンクロイデス

Clematis ranunculoides(クレマチス ラヌンクロイデス)キンポウゲ科センニンソウ属。種形容語のranunculoidesとは、花がラナンキュラスに似ているという意味です。それはカンパネラ節(sect. Campanella)に分類されます。雲南省、広西チワン族自治区、貴州省などに生息し、1m程度の高さで直立します。

中国雲南省南部は亜熱帯気候です。このクレマチスは、中国南部からミャンマー北部に生息しています。

クレマチス アーマンディー

クレマチス アーマンディーClematis armandiiキンポウゲ科センニンソウ属。木本なのか草本なのか不明なクレマチス属において、アーマンディーは10m程度に育つほど巨大で、明確な木部を持つ常緑樹です。暖かい地域のクレマチスは葉を落とす必要がないのでしょう。

中国のさまざまなクレマチス、その豊富さは群を抜いています。しかし、私が見た種はその一部に過ぎません

次回は「マンテマ属[その1] センジュガンピとオグラセンノウ」です。お楽しみに。

JADMA

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