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マンテマ属[その6] オオシラタマソウとマンテマ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

マンテマ属[その6] オオシラタマソウとマンテマ

2023/08/08

マンテマ属を巡っていたら「その6」までのシリーズになってしまいました。それほどナデシコ科マンテマ属は種類が豊富で、興味深い植物群だということです。今回は、オオシラタマソウという、ユーラシア大陸に原生するマンテマ属の話から始まります。

初めてオオシラタマソウを見たのは、中国平陰県バラ鎮こと玫瑰鎮(メイクイチン)の食香バラ畑でした。オオシラタマソウは、バラ畑の雑草だったのです。そのユニークな姿に驚いた私。バラを見に来たのに雑草に心を動かす変な日本人でした。

余談ですが、食香バラを栽培し利用する愛好家が徐々に増えています。最近では、自治体単位でこのバラをさまざまに加工して、農産物にしようという動きが出てきました。そんな理由で私も少しばかり忙しくなりました。

思わず「なんだこれ!」と声が出た食香バラ畑の雑草がこれです。この姿からマンテマ属の植物だということは分かります。こんな、見たことも聞いたこともない植物と出会えるのですから、植物ウオッチングはやめられないのです。

オオシラタマソウ

オオシラタマソウSilene conoidea(シレネ コノイディア)ナデシコ科マンテマ属。種形容語のconoideaは、円すい状という意味です。それは、果実を包む、がく片の形状からの命名だと思います。この植物は、フランス、スペインなどの南西ヨーロッパ、モロッコ、エジプト、北アフリカからコーカサス、中国中西部などと生息域が広く、weed silene(雑草シレネ)として知られています。まれに日本でも外来種として出現することがあります。

オオシラタマソウを見たとき、すぐにХрам Васи́лия Блаже́нногоに似ていると思いました。ロシア語を少し勉強した私。ロシア文字の発音は簡単です。フラム バーシリア ブラジェンナバと読み、聖愚者ワシリイ寺院と訳します。ロシア、赤の広場の近くにある、おとぎの国みたいな世界遺産の建物。日本では聖ワシリイ大聖堂として知られています。このマンテマ属の子房の膨らみがそのドームにそっくり!です。

オオシラタマソウは、下から分枝せずに茎を立ち上げ、上部でわずかに分枝します。全草に毛が生えていて、茎上部やがく片などから粘液を出し、べたつきます。草丈は50cm程度になります。

3月春。鹿児島開聞岳(かいもんだけ)の麓では、藤の花が咲き春らんまんの暖かさです。関東より1カ月は季節が進んでいました。温暖な地でなければなかなか路地で見られない、イペーの木が黄色い花を咲かせていました。それは、コガネノウゼンHandroanthus chrysotrichus(ハンドロアンサス クリソトリクス)ノウゼンカズラ科ハンドロアンサス属という落葉樹。ブラジルやアルゼンチンに原生しています。その木の周辺には、たくさんのシレネ ガリカが雑草として群生していました。

シレネ ガリカ

シレネ ガリカSilene gallicaナデシコ科マンテマ属。種形容語のgallicaとは、ラテン語でフランスを表す古名Gaulのことです。それは、この植物本来の原生地を示していると思います。地中海沿岸とヨーロッパ西太平洋沿岸部に原生しますが、温帯世界全体に移住して雑草化しました。

シレネ ガリカは、背丈が40cm程度あり、茎が直立します。全体が繊毛(せんもう)に覆われ、上部に粘液を分泌する腺があり、べたつきます。花は1cmに満たないサイズです。和名はシロバナマンテマといいます。白花とありますが、このシロバナマンテマには、シレネらしいピンク色の花を咲かせる株があります。

さらに暗赤色の斑点を付ける株もあります。それはマンテマSilene gallica var. quinquevulnera(シレネ ガリカ バラエティー クイーンクエベルネラ)といい、シロバナの変種として扱っているみたいです。このマンテマは、以前ならそこかしこでよく見ることができましたが、今は、どういうわけか見つけるのが難しくなりました。変種名のquinquevulneraは、5つの脈という意味です。マンテマは、江戸時代に渡来した一年草ですが、マンテマと呼ばれる和名の意味は不明です。

次に北米のマンテマ属を紹介します。

シレネ カロリニアナ

シレネ カロリニアナSilene carolinianaナデシコ科マンテマ属。種形容語のcarolinianaは、北米南東部カロライナ州を表しますが、原生の範囲は広く、北米東部と中央部に原生です。アメリカ合衆国では、wild pink(ワイルド ピンク)とか、Carolina campion(カロライナ キャンピオン)と呼ばれます。

いかがですか、この色合い。シレネ属独特のピンク色。まさにシレネピンクと名付けたい色映えです。このシレネ カロリニアナは、園芸的にも大人気「ピンクパンサー」という流通名まで付いています。日当たりと水はけを好む一年草ですが、深刻な病虫害もないため、この花の人気はしばらく続きそうです。

私の画像倉庫には、名前も分からないシレネがまだいくつか眠っています。それほど、種類が多く、奥深いマンテマ属です。知らない土地に咲く分からないマンテマは、まだまだありそうですが、この辺でシリーズを締めます。

次回は、中国四大奇書にまつわるお話「水の滸(ほとり)[その1] アサザ」です。お楽しみに。

JADMA

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