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シュンギク属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

シュンギク属

2023/11/21

今年の9月は、例年になく暑かったので種まきが遅れました。ホウレンソウなど発芽の失敗が多かったです。皆さんは秋冬の好きな野菜は何でしょうか?どの野菜もおいしくて一つに決めるのは無理かも。今回はこれからの時期、食卓を飾るシュンギクという植物のお話です。

シュンギクは緑黄色野菜として、ビタミン、ミネラル(特にカルシウム)が豊富に含まれている健康野菜。独特の香りと歯応えは、天ぷらにしても、ナムルにしてもおいしくいただけます。子どものころは好きではなかったけど、年とともににその好感度は上昇。そして、毎年プランターで栽培する野菜の常連となりました。

シュンギクは、和風の料理に合い、すっかり日本になじんでいますが、もともと東アジアに原生していません。このシュンギクは、どこにどのように生えているものでしょうか? シュンギクが野原に生えている地域は、どこにでもあるのですが、意外とその地域ではシュンギクを食べることは少ないです。遠く離れたアジア、特に東アジアの人たちに好まれ、盛んに利用されています。

ここは、東アジアを遠く離れたエーゲ海キクラデス諸島です。秋に種まきする一年草の故郷は、地中海沿岸とその気候に類する地域と相場が決まっています。この地域は、暑く乾燥する夏と温暖で降雨のある冬を特徴とする気候区分です。草本植物たちの多くは、秋の降雨で種子から芽を出し、温暖で湿った冬に成長します。そして、春に花を咲かせ、乾期の夏前に種子を付けて枯れていきます。それらを園芸の世界では秋まき一年草といいます。

大昔、このあたりで海底火山の大規模爆発がありました。この島は、カルデラの外輪山頂上が海面から姿を現したもの、周りは切り立った断崖絶壁になっています。

シュンギクの野生種

シュンギクは、ほぼ地中海地域全体に原生する野の草。特に自然かく乱があった場所や、人の開発によって荒れ地になった場所を好み生える、雑草的性質の強い一年草です。切り立った島の断崖には、どこかで見たようなキク科の黄色い花が見られます。それがシュンギクの野生種なのです。

シュンギク

シュンギクGlebionis coronaria(グレビオニス コロナリア)キク科シュンギク属。属名のGlebionisは、フランスの植物学者でキク科植物の専門家として知られるAlexandre Henri Gabriel de Cassini(アレクサンドル・アンリ・ガブリエル・ド・カッシーニ、1781~1832)にちなみ、種形容語のcoronariaは花冠を表します。

シュンギクは降雨のある、秋から冬に成長して、翌春4~5月に80cm程度の花茎を立ち上げ開花します。そして、高温乾燥の夏前に枯れ、種子を付けます。花はキク科独特の頭状花(とうじょうか)。環状花(かんじょうか)と舌状花(ぜつじょうか)の集合体です。全体の大きさは5cm程度の大きさで、なかなかの美しさです。現地では、Garland(花の冠)chrysanthemum(キク)とも呼ばれるみたいなので、この花でお花の冠を作るのかもしれません。

シュンギクは、古くからキク属に分類されてきましたので、キク属としての学名Chrysanthemum coronariaで覚えてきた方も多いと思います。1999年、国際植物学会議はGlebionis(シュンギク属)を定義し、Chrysanthemum coronariaはシュンギクのシノニムになりました。Glebionis(グレビオニス)属は、3種を含む小さな属でどれも地中海沿岸域に生育しています。

ハナワギク

ハナワギクGlebionis carinata(グレビオニス カリナータ)キク科シュンギク属。地中海沿岸北アフリカに原生とされるシュンギク属です。シュンギクにない色合いで、花も大きく6cm程度あり、ヨーロッパではTricolour daisy(トライカラ―デイジー)ともいわれています。種形容語のcarinataは、脊梁(せきりょう、背筋)のあるという意味です。それは、種子の形状が平たく大きいことを表すものだと思います。シュンギク同様に栽培は簡単で、観賞用の植物として高さ60cm程度になりますが、食用にはなりません。この他に、シュンギク属にはアラゲシュンギクGlebionis segetum(グレビオニス セゲタム)があります。

シュンギクは、日本には原生していないので、大陸から伝えられたものです。遠い異国の植物のよいものをすぐに取り入れ、改良することを得意とする日本において、それぞれの地方色に合わせた品種分化をしてきました。それらは、大まかにいえば、西で好まれる大葉系、東で栽培される中葉系、そして中間系の三つに分れます。

シュンギクの発芽や栽培温度は20℃くらいがよいので、9~10月に種子をまきます。春まきもできますが、花が咲きやすいので秋まきをおすすめします。シュンギクは、もともと発芽率が高くないですが、種子の袋には使い切れないほどたくさんの種子が入っているので多めに種子をまき、芽が出たら、間引きをするか移植して育てます。栽培は簡単ですが、凍るような寒さでは葉先が傷むので霜よけをした方がよいでしょう。

畑がなくても、プランターや大きな鉢植えでも栽培は簡単です。株元から切らずに伸びてきた枝で収穫すれば、何度でも繰り返して収穫できます。左上の写真は「中葉春菊」といい、香りと歯応えが魅力です。右上の写真は、関西で主に食べられる「大葉春菊」です。葉肉が厚くて柔らかく、味がなんとも豊かで大好きになりました。温暖地・暖地では、10月中旬までに種まきして、 11月から不織布などで保温をしてあげれば栽培できます。採ったばかりの新鮮なシュンギクの風味は絶品です。お試しください。

次回は、透明感のある青い花茶「バタフライピー」という名前で話題の「蝶豆」のお話です。お楽しみに。

JADMA

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