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青い花茶 蝶豆(チョウマメ)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

青い花茶 蝶豆(チョウマメ)

2023/11/28

透明感のある青い花茶を作れる蝶豆(チョウマメ)。園芸家の中では、昔から親しまれている植物の一つですが、色映えがよいので「花茶」として注目されるようになりました。最近では「バタフライピー」という名前でよく話題になります。

チョウマメ

チョウマメClitoria ternatea L.(クリトリア テルナテア)マメ科チョウマメ属。赤道周辺のアジアに原生します。この植物は、英名でButterfly pea(バタフライピー)と呼ばれ、和名は英名の和訳です。属名のClitoriaは、スウェーデンの生物学者Carl von Linné(カール・フォン・リンネ、1707~1778)が命名しました。種形容語のternateaは、北緯0度48分、東経127度20分に位置するインドネシアのTernate(テルナテ) 島に産するという意味です。

上の写真は、熱帯においてチョウマメが露地に雑草化している様子です。チョウマメ属は、世界の熱帯、亜熱帯地域に分布し、調べてみると70種ほどある大家族です。それぞれが特定の地域や島に産し、なかなか希少な植物です。テルナテ島の固有種であったチョウマメは、きれいな青い色素が採れる有用な植物として、世界の熱帯、亜熱帯~暖地でも栽培されています。

チョウマメの原生地であるテルナテ島は、熱帯雨林気候で一年中大雨が降ります。そんな故郷を持つこの植物は、今年の猛暑にもへこたれない耐暑性があります。ハダニは付きますが、それ以外に深刻な病害虫も見当たりません。暑さに強いチョウマメは、逆に寒さに耐性がないので、日本の冬には耐えられません。生育は旺盛で、ひと夏で大きく広がるので「緑のカーテン」にもよいでしょう。花は、一日花で午後にはしぼみます。

テルナテ島は、ほぼ赤道直下なので、一年を通して昼は12時間、夜も12時間です。それは、チョウマメの開花は日長の影響を受けず、四季咲きであることを意味します。熱帯、亜熱帯地域では、一度植えたら一年中花を咲かせる宿根草なのでしょう。日本では、一年草扱いです。

生花を三つほど採ってお湯に浸すと、美しい青い色素が抽出できました。この色素の濃さと見栄えのよさは、チョウマメの花が持つ大きな長所です。さらに、この色素はリトマス試験紙のようにpHで色が変わります。チョウマメの花茶に、レモンを加えると、レモンに含まれるクエン酸に反応してきれいな紫に変色しました。

チョウマメのしぼんだ花弁を集めて、湯通しすると色素が出ます。ジンなどを加えてカクテルで楽しむのもよいと思います。青い色に飽きたら、レモンを加えてみましょう。いかがでしょうか、この色合い、この情感!味は無味なので期待しないでください。雰囲気だけ楽しみましょう。

チョウマメの八重咲き種

チョウマメの通常花は一重ですが、八重咲き種もあります。上の写真のようにごちゃごちゃしているので見栄えはよくありませんが、苞(ほう)と花弁の量が豊富なので、色素抽出に適しています。

チョウマメの白花とラベンダー色の花

チョウマメは、あの青い花が特徴ですが、白花やラベンダー色の花を付けるチョウマメもあります。これらは、色素を合成する能力に欠けている品種です。観賞用にさまざまな色合いを楽しむには適していますが、使用価値はいかがなものでしょうか?余談ですが、白い植物色素というものは存在しません。白色は細胞の液胞にある空気の泡が光を反射して白く見えるのです。

チョウマメは、高温発芽なので十分に暖かくなってから種子をまきます。すると8~10月に開花します。チョウマメは、花を咲かせると自家受粉して、このような莢(さや)を付けます。これはマメ科独特の果実で、豆果(とうか)と呼ばれます。インゲンやサヤエンドウなどは、この豆果を食用とするわけです。

私は花が咲いたら種子を採ります。莢が緑色のうちは、種子が成熟していないので辛抱し、莢が茶色に乾いてから収穫します。種子の表面に水をはじくワックスが付着しているため、種子の吸水がうまくいかず、発芽しない場合があります。この場合は「温湯浸法(おんとうしんぽう)」で対応します。水を沸騰させ、火を止めて容器に移し、その中に種子を浸して、冷えるまで置いてからまくとよく発芽します。

植物が合成する色素は、光合成によってできる糖から作られます。よく日が当たり光合成が活発であれば、色素量は増えます。その色素は、不安定で酸化などによって変化変容します。植物が作り出す色素は、種(しゅ)、品種によってさまざまで、私たちを魅了するのです。

次回は、きれいな色素を持つ豆でありながら、恐ろしい毒素を持つ植物のお話です。お楽しみに。

JADMA

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