小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ササゲ属[中編]
2023/12/19
ササゲ属の起源はアフリカとされ、熱帯から温帯にかけて100種ほどあり、浜辺やさまざまな環境に適応しています。私たちのよく知っているアズキはササゲ属に分類され、学名はVigna angularis var. angularis(ヴィグナ アングラリス バラエティ アングラリス)です。それは『ササゲ属 [前編]』で紹介したヤブツルアズキという野生種から、人類が作物化したものと考えられています。
アズキは、小豆粥(あずきがゆ)やお赤飯の他、砂糖と一緒に煮てあんこにすることが多いです。おしるこ、まんじゅう、あんパン、今川焼き、最中(もなか)、ようかん、大福、たい焼きなど数え切れないほどのバリエーションがあり、どれも甘党にはたまらないおやつです。
上の写真は、赤紫に光り輝く、アズキの種子です。このポリフェノール色素の豊富さは他にないでしょう。大きい豆と書いて「大豆(ダイズ)」、小さな豆で「小豆(アズキ)」。アズキは、日本でダイズの次に大量に消費されます。調べると、古事記にも小豆島(あずきじま)などの記述がありました。さらに、アズキ利用の考古学的な痕跡は、今から6000年前にさかのぼり、古くから日本においてアズキは、農耕作物に取り入れられていたようです。
アズキの原種は、長いつるを伸ばすつる性植物ですが、作物のアズキは、株立ちでつるがありません。つるを伸ばすマメ科植物には、まれにつるが伸びない変わり者が見つかります。それは、2018年3月6日に公開した『スズメとカラスの間に[前編] ソラマメ属
』で、カラスノエンドウを記述した際に、ツルナシカラスノエンドウを見つけたことで分かりました。
つるが伸びなければ支柱はいらないので、管理が楽です。どの時代にも目ざとい人がいて、そんな形質を野性の中から見つけ出したのです。さらに、つるなしの中から、豆の大きいもの、豆の色が濃いもの、収量が多いものが選抜されて、ヤブツルアズキという野草から、作物のアズキが出来上がったのでしょう。
アズキの花は、夏から秋にかけて咲きます。三出複葉(さんしゅつふくよう)の葉腋(ようえき)から花序(かじょ)を伸ばし、黄色の蝶形花(ちょうけいか)を咲かせるのですが、左右非対称のため、平衡感覚がおかしくなるような花です。竜骨弁(りゅうこつべん)をグニャっと曲げる左右非対称花は、訪花(ほうか)昆虫の背中を、受粉に利用するためと考えられています。
この植物の蕾(つぼみ)を見てください。まるでカタツムリみたい。故にスネイル(カタツムリ)フラワーといいます。学名はVigna caracalla(ヴィグナ カラカラ)マメ科ササゲ属とされていますが、Cochliasanthus caracalla(コクレアサンサス カラカラ)と独立した学名に変更されました。種形容語のcaracallaは、ギリシャ語・スペイン語でカタツムリを意味します。ヤブツルアズキやアズキなどの奇妙に変形した花を、園芸的にスネイルフラワーと呼ばれているこの植物の花を使って、解説します。
一番大きな上に立つ1枚の花びらを、旗弁(きべん)といいます。これは、虫に花の存在を示す広告塔の役割があります。中央にせり出す花弁を竜骨弁といい、2枚の花弁が合わさって雌しべ、雄しべを中に格納して保護します。アズキなどへそ曲がりの花は、これが左右対称にならず曲がっているのです。下に広がる花弁を側弁(そくべん)と呼び、訪れる虫たちの足場になります。
スネイルフラワーの植物体は、このような三出複葉のつる性植物です。熱帯南アメリカに原生するこの植物は、夏に旺盛につるを伸ばすので緑のカーテンとしての利用も可能だと思います。他花受粉(たかじゅふん)の植物らしく、花を咲かせてもなかなか実を付けませんでした。
アズキの周辺には、よく似た近縁の属がいくつかあります。この植物もその一つです。ノアズキDunbaria villosa(ダンバリア ビローサ)マメ科ノアズキ属。ノアズキ属は、少数種が東アジア、南アジアからオーストラリアに生息する種属です。ノアズキは、アズキと区別が困難なほどよく似ています。
ノアズキの種形容語のvillosaは、「長い柔毛(じゅうもう)を持つ」という意味です。ササゲ属との主な相違点は、豆果(とうか)の形状の違いです。ササゲ属の莢は細長く、ノアズキ属の莢は平たいのです。
こちらは、中国の河南省鄭州(かなんしょうていしゅう)の市場です。私は地方を訪れると、その地方の食生活が分かる気がして市場に行きます。
この市場では、細長い莢が特徴の野菜が目に留まりました。それはササゲ属の豆果です。もちろん日本でも食べるものですが、首都圏の八百屋さんではあまり見かけません。「十六ササゲ」や「三尺ササゲ」という野菜です。
次回、ササゲ属 [後編]では、先ほどの写真に写っていた三尺ササゲの魅力を中心にお伝えします。お楽しみに。