小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ツクバネの形 ペチュニアなど
2024/01/23
暖かい時期に、花壇やコンテナで楽しむ花である、Petunia(ペチュニア)を多くの方がご存じだと思います。この植物の和名を「ツクバネアサガオ」といいます。なぜ「ツクバネ」と呼ばれるのでしょうか?
ペチュニアという植物は、南北アメリカ大陸に原生するナス科ペチュニア属の植物です。ノラナ属、ニコチアナ属に近縁の植物であり、日当たりを好み、草原や開けた野に原生します。自然かく乱や人によって開発された場所、河川敷や道路際に生え、雑草的な性質がある宿根草です。
私は、東日本大震災の年から被災地で、花と緑の復興に関わってきました。津波で荒らされた町と大地は、目を覆うものでした。しかし、そうした土地に、こぼれ種からペチュニアが生え、花を咲かせているのを何度も見てきました。ペチュニアは、自然が壊された土地に真っ先に生える、パイオニアプランツの一種だと思います。
当初の園芸種としてのペチュニアは、南アメリカに生える2種類の原種を交配して育成されました。この美しい派手な花を咲かせるペチュニアの品種改良は、欧米で始まり、世界に広がりました。植物の品種改良で優秀な技術を持つ、サカタのタネ(当時の坂田商会)は、世界初の実生系一代交配の完全八重咲き品種「ビクトリアス ミックス」や、赤地に白いすじ模様が入るスター咲き一代交配品種「グリッターセレクト」という名花の育種にも成功し、世界にその名が知られるようになりました。そしてサカタのタネは、花の一代交配時代を切り開くと共に、世界有数の種苗会社へ成長したのでした。
野に生えていた原種のペチュニアたちは、現在では、園芸種のペチュニアPetunia x hybrida(ペチュニア ハイブリダ)ナス科ペチュニア属として、お行儀よく鉢植えや花壇に収まっています。原種から品種改良された初期のペチュニアは、結構ワイルドな姿をしていました。
半世紀ほど前のペチュニアの品種「グリッターセレクト」と現在のペチュニアの品種「バカラ レッド」を比較して写真を撮りました。いかがでしょうか?品種改良は、日々営々と行われ、日進月歩しています。人の努力のたまものが、現在の園芸品種であるということが、よく分かる写真です。
ペチュニアは、世界中の花壇やコンテナでたくさん使われています。サカタのタネは、古くから品種改良を行って、画期的な品種を次々と生み出してきました。このペチュニアの長所は、栽培が簡単で株張りが大きいことですが、最大の特長は、アサガオみたいな平面的で大きな花を咲かせることです。しかし、このアサガオに似た花を見ているだけでは、ペチュニアの和名がツクバネアサガオで「ツクバネ」という名を持つ意味を、まだ理解できません。
花が咲き終わり、花弁を取ってみました。すると、このようながく片が見えるのです。このがく片が、ツクバネ状に見えるというのが、ツクバネアサガオの由縁です。和名の命名者が誰だか分かりませんが、大した観察眼です。
次は、別の「ツクバネ」と名が付く植物のお話です。写真は、東北の岩手県南部、大船渡市と釜石市などにまたがる、三陸沿岸では最も標高が高い五葉山(ごようざん)です。この地域は、花の名所として知られます。植物観察に出かけたのに、あいにくの雨…。いつも天気がよいとは限りません。この山で「ツクバネ」と名の付く植物に出会いました。
ツクバネウツギAbelia spathulata(アベリア スパチュラータ)リンネソウ科ツクバネウツギ属。この植物は、東アジアに3種ほどの属種を生育させている落葉低木です。家庭花木のハナツクバネウツギは、この属の改良種として知られています。
ツクバネウツギの種形容語のspathulataとは、ヘラ形の匙(さじ)状であることを表します。このツクバネウツギは、長らくスイカズラ科として分類されてきました。2003年に発表された「APGⅡ植物分類体系」では、スイカズラ科から学名の二名法を発明したCarl von Linne(カール・フォン・リンネ、1707~1778)の名前を冠する、リンネソウ科(Linnaeaceae)に移されたと聞きます。
左上の写真は、ツクバネウツギ属のがく片です。小さいのでツクバネほどのインパクトはありませんが、確かに「ツクバネ」の形をしていました。
次回は、「さまざまな翼を持つ果実について」です。お楽しみに。